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[第6シリーズ] 第1回

「DNAから学ぶ がんの基本」Q & A

回答者:平岡桐子先生

【 質問1 】
 がんの原因となるDNAの異常には様々なものがあるということですが、将来がん予防ワクチンが作られる時代が来たとしても、いろいろなDNA異常に対応するワクチンを何種類も打たないといけないということになるのでしょうか?
【 回答1 】
 現在開発が進められているがんのmRNAワクチンは、感染症ワクチンのように健康な人ががんにならないように予防するものではなく、がん細胞だけが持つ特徴(目印)を免疫に覚えさせて攻撃しやすくすることを目的としています。これらの目印の多くは、がん細胞に生じたDNA変異によって作られます。複数の目印を1つのmRNAワクチンに組み込む技術や、多くのがんに共通する目印を標的とする研究が進められており、将来的には変異ごとに何種類ものワクチンを接種するのではなく、1つのワクチンで複数の特徴に対応できることが期待されています。
【 質問2 】
 がんは大変身近な病気であり、研究も進みいまや死に至る病気ではなく、治る病気と言われています。とは言え死亡原因の上位にある病気です。更に研究が進んで死亡原因の下位になることは考えられますか?よろしくお願いいたします。
【 回答2 】
 その可能性はあると思います。実際に、脳血管疾患(脳卒中)はかつて日本人の死亡原因の第1位でしたが、予防や治療法の進歩によって現在では第4位まで順位を下げています。がんについても、予防、早期発見、治療法の進歩によって、将来的に死亡原因としての順位が下がる可能性はあると考えられます。
【 質問3 】
 ゲノムの遺伝情報ではない部分はどのような働きがあるのか知りたいです。
【 回答3 】
 ゲノム上の遺伝子ではない部分には、遺伝子の働きを調節したり、染色体の構造を維持したりする役割を持っています。また、まだ機能がわかっていない領域も多く、現在も研究が進められています。
【 質問4 】
 がんは人それぞれ違っていると聞いていたが、一人のあるがんの細胞は均一の細胞だと思っていた。がんの塊の中でいろいろな性質の違うがん細胞があるのですか?不均一性の部分。だとすると分子標的薬の使い方も複雑になるのですか? がんの遺伝子解析をする場合も何例も調べる必要がありますか?
【 回答4 】
 がんの塊の中にはいろいろな性質をもったがん細胞があります。分子標的薬で多くのがんが消失しても、その分子標的薬に耐性をもつがん細胞が残っているとがんが再発することがあります。がんの遺伝子解析をする場合は、数十から数百種類以上の遺伝子を一度に解析することができる「がん遺伝子パネル検査」というものがあります。
【 質問5 】
 RNAワクチン、抗がん剤などDNAレベルでの作用によって、治療効果が上がるような対応をしている医療についてどんなものがあるのか教えていただきたい。
【 回答5 】
 例えば、「遺伝子治療薬」があります。病気の原因となる遺伝子の働きを補ったり、正常な遺伝子を細胞に届けたりすることで治療効果を高める医療です。また、がんの治療では、がん細胞のDNA変異を調べて、その人に合った薬を選ぶ「がんゲノム医療」も行われています。このように、DNAの情報を活用した医療はすでに実用化が進んでいます。
【 質問6 】
 がんと食生活との関係について、予防の観点から教えて欲しい。
【 回答6 】
 塩分のとり過ぎを控えること、野菜や果物をとること、熱い飲み物や食べ物は少し冷ましてから口にすることなどが、がん予防の観点から勧められています。
 参考:国立がん研究センター がん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防法」
【 質問7 】
 身体の異常は先天的な物と後発的な物に分類されると思いますが、先天的な遺伝子は変えることが出来るのでしょうか(言い方は悪いですが、頭脳、身体の先天的な異常)
【 回答7 】
 遺伝子治療によって、病気に係る一部の遺伝子を変える医療が実際に行われていますが、生まれつきの体の特徴(外見)や、知能などの複雑な特徴を意図したとおりに変えたり修復したりする技術は、現時点では確立されていません。
【 質問8 】
 がん化と生物の進化はいずれもDNAの変質の結果で、相反する表現型?と思ったのですが、いかがでしょうか?がん化は生存に悪影響の結果、進化は環境等に適応したプラスの結果のように思いました。
【 回答8 】
 がん化は個体にとって不利益な変化で、進化は環境への適応として語られることが多いため、相反する結果のように見えるかもしれませんが、進化は必ずしも個体の生存にとってプラスになるとは限りません。そのため、がん化と進化を単純に「相反する結果」と言うことは難しいと考えます。
【 質問9 】
 がんの原因が遺伝子に傷がつくことで、遺伝子修復に関わるタンパク質などが明らかになっているなら、これらの機能をより活性化させる、がんの予防薬のようなものを作ることはできないのでしょうか。数は少ないけれど影響の大きい遺伝子が起こすがんと、影響は小さいけれど多くの遺伝子が関わるがん、どちらががんとしては多いのでしょうか。
【 回答9 】
 DNAの修復機能を高めることでがんを予防しようという研究は行われていますが、修復力を高めることでがん細胞の生存力まで高めてしまうなどの課題があり、がんの予防薬としてはまだ実用化されていません。また、2つ目のご質問については、「数は少ないけれど影響の大きい遺伝子変異が起こすがん」でも、影響の小さい遺伝子変異も同時に蓄積していることが多いため、単純に比較することは難しいのですが、2658例のがんゲノムを解析した大規模研究では、ドライバー変異(がん化に重要な役割を果たす遺伝子変異)が見つからなかったがんは約5%でした。このことから、多くのがんでドライバー変異が関与していると考えられています。
【 質問10 】
 癌は長い時間をかけて増殖するとの説明でした。年齢が高くなると癌の発病が多くなるのは納得できますが、子供、乳児でも癌になるのはどうしてですか?癌の種類によっては時間をかけずに急速に増殖するのですか?遺伝的な原因ですか?
【 回答10 】
 小児がんは成人がんより変異の数は圧倒的に少ないのですが、発生や分化に関わる重要な遺伝子の変異によって発症すると考えられています。そのため、長い年月をかけて多くの変異が蓄積しなくても、乳児や子どものうちに発症することがあります。また、がんの種類によって増殖速度は異なり、急速に進行するがんもあります。なお、その多くは成長の過程で偶然生じたものであり、親から受け継いだ遺伝的な要因が関与するのは約10%程度とされています。
【 質問11 】
 がんの研究ならびに治療薬の開発はAIの登場で変化した点はあるのでしょうか?また海外メーカーの高額な治療薬が話題になっていますが、日本がリードしているがん治療の期待すべき分野はありますでしょうか?
【 回答11 】
 AIの登場により、大量のゲノムデータや医療データの解析が大幅に効率化されました。例えば、患者ごとの遺伝子変化の解析や新しい治療薬の候補探索などに活用されています。日本が強みを持つ分野としては、ノーベル賞を受賞したPD-1の発見をきっかけに大きく発展した「がん免疫療法」や、iPS細胞を利用した細胞治療があります。