[第5シリーズ] 第1回
「DNAで魚を探る 〜環境DNA分析技術による魚類の調査〜」Q & A
回答者:山川央先生
【 質問1 】
環境中のDNAは得られても、そのデータを照合するDBの方が整備されていないと、結局何由来のDNAかわからない、ということなのですね。そのDBを整備するプロジェクトなどは動いているのでしょうか。また、とりあえず現在のデータをとっておいて、DBが整備されたら照合して、当時の環境を振り返る、、、などという未来は来るのでしょうか。
【 回答1 】
DBを整備するプロジェクトはいろいろ進められていますが、例えば、あらゆる海洋生物の配列情報を収集してDB化するというプロジェクトが東北大学を中心に動いています。
メタバーコーディング法の場合、種名が判然としない配列データも得られますが、これらも合わせて基本的に公共DBに登録されますので、その情報を用いて改めて解析を行うことができます。また、取得した環境DNAそのものを保管しておけば、プライマーを変えるなどして改めて解析し直せば、取得時の生物相を解析し直すことも可能です。
メタバーコーディング法の場合、種名が判然としない配列データも得られますが、これらも合わせて基本的に公共DBに登録されますので、その情報を用いて改めて解析を行うことができます。また、取得した環境DNAそのものを保管しておけば、プライマーを変えるなどして改めて解析し直せば、取得時の生物相を解析し直すことも可能です。
【 質問2 】
サンプル収集のボランティアは足りているのでしょうか、どのような場所に今後必要でしょうか?
【 回答2 】
例えば、アースウォッチジャパンの日本全国一斉調査の場合、ボランティアはたくさん集まっていますが、残念ながら地域が非常に偏っていて、手薄なところも発生しています。日本海側は全体に手薄で、特に山陰と東北の日本海側は集まりが悪いです。
【 質問3 】
「採取したeDNAをPCR法で処理する際に、目標とする生物種に適したプライマーを用いて、特定のDNA領域を増幅する」というお話でしたが、 ①全生物種の定量的測定をするのに適したプライマーがあるのでしょうか? つまり、全生物種に共通であり、かつ、生物を特定できるという、都合の良い「ある特定のDNA領域」があるのでしょうか? それとも、 ②複数のプライマーによる分析結果をつなぎ合わせて、幅広い生物種の定量的な測定をするのでしょうか?仮に、②だとすると、異なるプライマーにより検出された生物種の相対的な存在量を定量的に測定することは可能なのでしょうか?
【 回答3 】
①のような領域はまだ見つかっていないと思います。領域としては共通の場所を使用できても、分類群ごと少しずつ違う配列になりますので、全生物種に共通の配列となると、おそらくそういう配列はないと思われます。一方で、②のように生物種によって領域を変えてしまうと、PCR増幅の効率が異なるなどの状況が想定されますので、全ての生物種に共通の定量基準を設けることは難しいです。UMIという標識配列を入れることでPCR産物から鋳型量を推定する手法があり、これを用いて鋳型となった環境DNAの分子数を推定するという試みも論文として発表されていますが、まだ研究段階で実用には至っていないようです。
【 質問4 】
環境DNA分析技術の特徴について理解が深まりました。また、具体的な調査結果を紹介いただき大変興味深く拝聴できました。2点ほど質問です。①特定の時期に発生した生き物や微生物を評価することは可能でしょうか。例えば、ひと夏の間に田んぼの土の中で発生した光合成細菌の種類や量を調べられるでしょうか。調査時期以前に発生した光合成細菌のDNAの影響が気になります。②①の目的で環境DNAを調査する場合、採取する試料(水?土?)や採取する時期はどのように決めればよいでしょうか。
【 回答4 】
その事象が発生した時のサンプルを取得していれば評価は可能です。非常に短期間の評価例では、産卵(放精)がいつ行われたかを環境DNAでモニタリングする、という研究があります。なお、現在の試料を分析して過去を推定するのは、今のところ難しいと思います。
【 質問5 】
時々「環境RNA」という言葉を聞きますが、この方面の研究は進んでいるのでしょうか。
【 回答5 】
環境RNAは、RNAが短時間で分解されることから、環境DNAよりも短期間の生物の状況を反映していると考えられていて、盛んに研究されています。ただ、環境DNAはすでに実用段階にあって公的な調査にも正式に用いられるようになっているのと比べ、環境RNAはまだそこまでは至っていないようです。
【 質問6 】
水道水にも、同じサンプリング方法を行ったら魚などのデータは取れるのしょうか。利根川水系などの水系依存で取れるデータが異なるのかも興味がありますし浄水場依存で取れたり取れなかったりするのかも興味があります。
【 回答6 】
調べたことはありませんが、水道水は塩素消毒されていますので、おそらくDNAは分解していると思います。
【 質問7 】
環境DNA分析の精度は良いようですので利用の試みとして天気図の魚類版が出ていますが他にはどのような試みがなされていますか?
【 回答7 】
様々な利用方法が考えられます。例えば以下のようなことが試みられています。
スポット的な調査データの利用
・外来種の検出 ― 生息域の拡大や駆除の効果の評価など
・希少種の検出 ― 生息状況(いる/いない)の調査
・保護したい生物種に対し、その生活に影響を与える種(捕食種など)の生息状況の調査
広域的な、あるいは長期にわたる調査結果の利用
・注目する生物種の出現あるいは消滅の予測 ― 磯焼けの予測、魚群の動きの予測など
・分布の長期的な変動検出 ― 温暖化の影響などによる分布域の北上の検出など
・分布構造の解明 ― 群集構造の分布や境界の検出など
他にもいろいろな使い方が考えられると思います。こんなことを調べられないか、などのアイデアがあれば是非ご一報ください。
スポット的な調査データの利用
・外来種の検出 ― 生息域の拡大や駆除の効果の評価など
・希少種の検出 ― 生息状況(いる/いない)の調査
・保護したい生物種に対し、その生活に影響を与える種(捕食種など)の生息状況の調査
広域的な、あるいは長期にわたる調査結果の利用
・注目する生物種の出現あるいは消滅の予測 ― 磯焼けの予測、魚群の動きの予測など
・分布の長期的な変動検出 ― 温暖化の影響などによる分布域の北上の検出など
・分布構造の解明 ― 群集構造の分布や境界の検出など
他にもいろいろな使い方が考えられると思います。こんなことを調べられないか、などのアイデアがあれば是非ご一報ください。
【 質問8 】
生物由来の環境DNAは細胞小器官などからきているだろうとのことでしたが、時間としてはどの程度以前のものまでわかるのでしょうか(どのくらい古くなったものはDNAが検出できないのか)
【 回答8 】
放出された環境DNAがどのような状態にあったかに依存します。通常の水中に放出された環境DNAの場合は、検出される時間は数時間程度と言われていますが、環境DNAが分解されないように保たれていれば、相当な期間検出可能なようです。例えば海底の堆積物に取り込まれて保管されていた場合、数万年レベルの過去の生物の状況がわかった例もあります。
【 質問9 】
講座の内容からそれますが、PCRでターゲットを増幅して分析されるとありましたが、ターゲットをウイルスや細菌等病原体にすることはできるのでしょうか?またできるならは病気の予測や発見に繋がることはありますか?
【 回答9 】
コロナウイルスの検出を下水から行った例がありますが、これも一種の環境DNA分析です。また、寄生虫の検出に環境DNAを用いた例もあります。こういった調査例を蓄積すれば、生活に関係する水を調査することで疫病の流行などを予測することが可能になるかもしれません。



