オミックス解析普及センター
「オミックス解析」とは耳慣れない言葉かも知れませんが、ゲノム情報を基礎として、生体を構成しているさまざまな分子を網羅的に調べていく方法を意味します。このような解析には先進的な解析装置や電子計算機システムやデータベース等大量情報を取り扱うための基盤が必要なために、社会には潜在的なニーズがありながらも十分に利活用されていないのが我が国の実情でした。
そこで、当センターでは、かずさ DNA 研究所がこれまでに培ってきた解析技術やノウハウを活かして、基礎研究のみならず臨床や産業の現場でオミックス解析を実際に活用していただくためのさまざまな支援活動を展開します。
ゲノミクス
ゲノミクスとは生物やウイルスが持つゲノムを解読する研究です。ゲノムは全遺伝情報であるので、研究対象物について調べたいことを解読する最初の地図となります。調べたい目的によって様々な手法を駆使します。高額になりますがゲノム全てを読む全ゲノムシークエンス、安価に効率的に目的の領域だけを読むExome シークエンス・Target シークエンス、50kb以上にも及ぶより長い領域を読むロングリードシークエンスがあります。以上の手法を駆使して、ゲノム情報がまだ読まれていない生物やウイルスのゲノムを解読するためのde novoシークエンスや、環境 DNAといわれる海や池や土壌中に残存するDNAを解析することによってそこに生息する生物を調べることもできます。
トランスクリプトミクス
それぞれの生物は、生活環境や成長状態に合わせて遺伝子転写産物を変化させます。さらに、多細胞生物の場合には組織や器官によっても遺伝子転写産物は独自の構成をとります。トランスクリプトミクスとは、調べたい状況下での遺伝子転写産物を調べる研究です。手法として、遺伝子転写産物の種類や頻度さらに塩基配列や構造を調べるRNA-Seq、安価に種類や頻度だけを調べる3’RNA-Seq、遺伝子の全長を調べるロングリードシークエンス、抗体遺伝子の配列を調べる抗体可変領域解析等があります。最近では、同じ組織内においても個々の細胞の遺伝子発現は同じではなく、様々な遺伝子発現の細胞が協調的に働いていることが明らかになってきたので、1 細胞 レベルのRNA-Seqも行っています。
プロテオミクス
プロテオミクスとは生体内の細胞、組織、体液などに含まれるタンパク質を包括的に解析する研究分野です。このタンパク質を包括的に解析する手法自体をプロテオーム解析と呼び、バイオマーカー探索、病因解明、相互作用タンパク質の同定などを目的に様々な分野で応用されいます。当センターではプロテオーム解析用の質量分析計として、ハイスペックなサーモフィッシャーサイエンティフィック社のOrbitrap Exploris 480とQ Exactive HF-Xの2台が導入され、さらに次世代プロテオーム解析と称される分析深度、定量性に優れたDIAプロテオーム解析法を逸早く取り入いれたことで組織、細胞サンプルから最大9,000 タンパク質を同定し、比較定量解析を行うことができます。
臨床メタボロミクス/リピドミクス
メタボロミクス/リピドミクスは、ゲノム情報の発現過程の最下流に位置しているオミックス解析の一つの分野で、生体内に存在する代謝物(微生物を含む)を解析して、代謝変化の背後に関わる分子の探索を行い、生体機能や病態との関連性を明らかにする研究です。それぞれの代謝物には、物性の違いがあり(主には親水性と脂溶性に大別される)、生体内での濃度域も大きく異なるために、本受託サービスでは、最先端の分析機器のみならず、それぞれの代謝物の性質に関する知識や経験に裏付けられた方法論を提供しております。また、その技術的な特徴として、「オミックス研究」としての位置づけを重視した網羅性の高い“ワイド”フォーカシング解析(親水性代謝物)や、ノンバイアス解析(脂質代謝物)のメニューがあり、予想外の代謝変動やバイオマーカー分子の発見に繋がることも期待されます。
マルチオミクス
マルチオミクスでは上記のような各階層のオミクス解析を複合的に行い、単独のオミクス解析に加えて各階層との関係性を解析することで複雑な生命現象や疾患メカニズムなどを詳細に解明にすることができます。通常、各オミクス解析ごとにサンプルを準備する必要がありますが、当センターでは1つのサンプルからトランスクリプトーム解析とプロテオーム解析を行うことが可能です。その他のオミクス解析の組み合わせはそれぞれのオミクス解析用にサンプルを準備して頂く必要あります。