トマトの雄性不稔を回復させる遺伝子座を特定しました

2025/7/14

研究開発

かずさDNA研究所は、筑波大学、国立遺伝学研究所、先進ゲノム支援と共同で、トマトの雄性不稔を回復させる遺伝子座を特定しました。

キャベツやダイコン(アブラナ科)、トマトやピーマン(ナス科)など消費の多い野菜は、異なる2系統を両親としてかけあわせること(交雑)で得られる一代雑種(F1)が一般的です。F1品種は、両親の優れた性質を引き継ぎ、同時期に同じ品質の野菜が大量に収穫できることから、現代の農業には欠かせない存在です。

トマトなどのナス科作物では、F1品種を作る際に、同じ花の花粉が受粉(自家受粉)しないように、開花前の花から雄しべを取り除く「除雄(じょゆう)」という作業が必要ですが、種苗会社にとって大変手間のかかる作業です。
以前の研究により、トマトで花粉をつくらない性質(雄性不稔)に関わる orf137 遺伝子[1,2]が特定されており、これを従来品種に導入することで、除雄作業なしにF1種子を採ることができるようになりました。
しかしこの方法では、得られたF1個体も雄性不稔となるため、果実を実らせることができないという問題が残っていました。
一方で、トマトの祖先種の中には、この雄性不稔を回復させる遺伝子(RF遺伝子)を持つものが存在することが知られていましたが、その遺伝子がどこにあるのか(遺伝子座)はこれまで明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、以前にゲノムを解読した祖先種2種(Solanum pimpinellifoliumSolanum lycopersicum var. cerasiforme)[3]と、今回新しくゲノムを解読した祖先種(Solanum cheesmaniae)を利用して、F1での雄性不稔を回復させるRF遺伝子座を解析しました。その結果、祖先種は複数のRF遺伝子座を持つことが明らかになり、RF遺伝子座を識別するためのDNAマーカーを開発することができました。

本研究の成果により、雄性不稔を利用した効率的なF1種子の生産と、F1個体が正常に果実をつけることの両立が可能となり、トマトの品種改良に大きく貢献することが期待されます。

[1] https://www.kazusa.or.jp/news/pr20211201/
[2] https://www.kazusa.or.jp/news/pr20220301_2/
[3] https://www.kazusa.or.jp/news/210127_1/

論文タイトル:Multiple fertility restorer loci for cytoplasmic male sterility caused by orf137 in tomato

著者:Yurie Iki, Issei Harada, Kentaro Ezura, Seira Mashita, Kosuke Kuwabara, Hitomi Takei, Atsushi Toyoda, Kenta Shirasawa, Tohru Ariizumi

掲載誌:Journal Of Experimental Botany

DOI:10.1093/jxb/eraf309

 

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