世界を代表するオオムギ系統の遺伝子発現解析に成功~品種改良に用いる遺伝子の精密な活用が可能に~

2025/2/3

研究開発

かずさDNA 研究所が参画した国際研究グループは、世界中の代表的なオオムギ系統について、詳細な遺伝子発現解析を行い、
遺伝子のオン/オフを切り替える戦略が、異なる器官、時期にどの程度使用されているかを示しました。

オオムギはビールの醸造や、⻨飯などの⾷⽤、家畜の飼料に⽤いられる世界で4番目に多く栽培されている穀物です。当研究所では、先にオオムギの変異を代表する複数系統のゲノム配列の高精度解読(パンジェノム解析)についてお知らせしました(2024/11/14付けプレスリリース)。しかし、品種改良に用いる遺伝子が機能するためには、ゲノム上のDNA配列がRNA配列に写し取られ、変換されてつくられるタンパク質が、植物の形質として現れる必要があります。

本研究では、栽培オオムギの多様性を代表する 20系統(パンジェノムV1系統)について、複数の組織に由来するショートリードおよびロングリードの RNA 配列を解読および分析し、20系統のすべての遺伝子が、どこで、いつ、どの程度発現するかを特定しました。「パントランスクリプトーム」といわれるこの情報は、解析した系統間で大きく異なる発現パターンがあることを示しました。

現代のオオムギ品種はすべてほぼ同じ数の遺伝子を含んでいますが、高付加価値の穀物を生産する品種はごくわずかです。これは、ほとんどの遺伝子に、遺伝子の機能を変更するか、遺伝子がオンまたはオフになる器官、時期、程度 (遺伝子発現といわれるプロセス) に影響を与える変異が含まれており、一部の品種のみが適切な変異を持っているためです。これらの変異はそれぞれ、植物における遺伝子の役割を変える可能性があるため、オオムギを品種改良する際には 30,000 を超える遺伝子をどのように組み合わせるかで、品種が高付加価値になるかどうかが決まります。このように、品種内および品種間の遺伝子発現の動的パターンを知ることができる本研究の発見は、将来の精密な品種改良の戦略のために重要な基礎データとなります。

 

論文タイトル:A barley pan-transcriptome reveals layers of genotype-dependent transcriptional complexity

邦題:「オオムギのパントランスクリプトームは系統由来の遺伝子転写の複雑性を明らかにする」
掲載誌:Nature Genetics
DOI:10.1038/s41588-024-02069-y
著者:全54名10か国、下線太字はかずさDNA研究所の著者

Wenbin Guo, Miriam Schreiber, Vanda B. Marosi, Paolo Bagnaresi, Morten Egevang Jørgensen, Katarzyna B. Braune, Ken Chalmers, Brett Chapman, Viet Dang, Christoph Dockter, Anne Fiebig, Geoffrey B. Fincher, Agostino Fricano, John Fuller, Allison Haaning, Georg Haberer, Axel Himmelbach, Murukarthick Jayakodi, Yong Jia, Nadia Kamal, Peter Langridge, Chengdao Li, Qiongxian Lu, Thomas Lux, Martin Mascher, Klaus F.X. Mayer, Nicola McCallum Linda Milne, Gary J. Muehlbauer, Martin T.S. Nielsen, Sudharsan Padmarasu, Pai Rosager Pedas, Klaus Pillen, Curtis Pozniak, Magnus W. Rasmussen, Kazuhiro Sato, Thomas Schmutzer, Uwe Scholz, Danuta Schüler, Hana Šimková, Birgitte Skadhauge, Nils Stein, Nina W. Thomsen, Cynthia Voss, Penghao Wang, Ronja Wonneberger, Xiao-Qi Zhang, Guoping Zhang, Luigi Cattivelli, Manuel Spannagl, Micha Bayer, Craig Simpson, Runxuan Zhang & Robbie Waugh

本研究は、(公財)かずさDNA 研究所、JSPS 科研費(23H00333) の研究助成を受けたものです。

現代のオオムギ品種(撮影:Robbie Waugh)

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