人工冬眠は可能か?(NL72)

宇宙船で火星に行くとなると、試算によって異なりますが、半年から2年かかると言われています。もし、航程の大部分で、宇宙飛行士を冬眠させることができれば、食料や酸素、生活空間などを節約することができ、宇宙船のサイズを小さくすることができます。

筑波大学と理化学研究所のグループは、睡眠や食欲について研究する中で、QRFPという神経ペプチド(アミノ酸が数個つながった分子)に注目しました。QRFPをマウスの脳に直接作用させると、食欲が増すことが知られています。そこで、脳の視床下部にある、QRFPを発現する神経細胞(Q神経)を遺伝子改変して、薬剤を投与するとQ神経が興奮するようにしました。人為的にQ神経を興奮させたところ、マウスの体温が下がり、低体温が数日間続き、ほとんど食べないなど、活動の低下がみられました。また、外気温を8-32℃の様々な温度にこのマウスをおいたところ、20℃前半より低い温度では身体を震わせて熱を産生し、体温を維持しようとする活動もみられました。このマウスは数日後には体温が戻り、身体にも異常は見られませんでした。

これらのことは、Q神経を刺激することによって人為的に冬眠状態に誘導できる可能性を示しています。これまで冬眠する動物を実験に用いることが難しいなどの理由から、冬眠を誘導するしくみは全く分かっていませんでしたが、この研究が進めば、ヒトも冬眠(人為的な活動低下状態)ができるようになるかもしれません。

 

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