ゲノム編集技術による治療(NL70)

2019年10月、国内では、遺伝子改変技術を使って品種改良した「ゲノム編集食品」の販売や流通に関する届け出制度が始まり、「ゲノム編集」という言葉が一般的になりました。一方で医療分野へのこの技術の応用も進んでいます。

米国の企業は、遺伝性の血液疾患を持つ2名の患者にゲノム編集技術を用いて試験的な治療を行い、治療効果があったことを発表しました。2人はそれぞれ、鎌形赤血球症とサラセミアという異常ヘモグロビン症(全身に酸素を運ぶ役割を持つタンパク質である、ヘモグロビンに関する疾患)の患者です。治療は、2人の造血幹細胞(骨髄の中にあり血球をつくる元となる細胞)を取り出し、ゲノム編集技術により、HbF(胎児型ヘモグロビン)遺伝子を常に発現できるようにゲノム配列を改変しました。この幹細胞を患者の体内に戻したところ、鎌形赤血球症では疼痛発作がなくなり、サラセミアでは輸血の必要がなくなったそうです。

胎児型ヘモグロビンは、母体内で胎盤を介して母親の血液から酸素を受けとることができるように、酸素との結合がより強くなっているものです(高校生物の酸素解離曲線の応用で習った人がいるかもしれません)。胎児型ヘモグロビンは、出生後には発現がなくなり、以降使われることがありません。研究グループでは長年、HbF遺伝子の発現を制御するDNA領域を探す研究を行い、この治療を可能にしました。

 

CRISPR Therapeutics and Vertex Announce Positive Safety and Efficacy Data From First Two Patients Treated With Investigational CRISPR/Cas9 Gene-Editing Therapy CTX001® for Severe Hemoglobinopathies.
CRISPR Therapeutics:http://www.crisprtx.com/

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