Heroタンパク質(NL72)

タンパク質は、漢字で「蛋白質」と書くこともあります。「蛋」は卵のことで、「蛋白」は卵の白身が白く固まる性質を表しているといえます。この漢字が示すように、タンパク質は過熱すると固く凝集し、その働きが失われて(変性して)しまいます。
ところが、温泉などの極限環境にいる生物のタンパク質は高温でも変性しません。東京大学のグループは、ハエの細胞からあるタンパク質を精製する実験の過程で、高温にしても安定なタンパク質が存在することに気付きました。
そこでこのタンパク質を調べるために、ハエとヒトの培養細胞の抽出液を95℃に加熱した後に、遠心分離により固まったタンパク質を取り除き、液体部分に溶けて残っているタンパク質を質量分析により同定しました。すると、ハエやヒトの細胞のなかからも耐熱性のタンパク質が見つかったのです。

この一群のタンパク質は、熱耐性(Heat-resistant)をもち、働きが分からない(obscure)ことから、Heroタンパク質と名付けられました。これらのHeroタンパク質の働きを調べたところ、他のタンパク質を熱や有機溶媒などによる変性から守る効果もあることが分かりました。タンパク質の変性や凝集は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などいくつかの病態でみられます。Heroタンパク質の研究がすすめば、これらの病気の治療法の開発につながるかもしれません。

東京大学プレスリリース Heroタンパク質の発見とその驚くべき機能
A widespread family of heat-resistant obscure (Hero) proteins protect against protein instability and aggregation.
Tsuboyama K, et.al.
PLOS Biology (2020)
DOI:10.1371/journal.pbio.3000632

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