都道府県での遺伝的な違い(NL74)

個別化医療を実現するためには、疾患と関わる遺伝子変異を正しく推定しなければなりません。遺伝的背景が異なる集団で比較した場合、疾患とは関連しない変異を間違って拾ってしまう可能性があるのですが、これまで日本人を対象とした遺伝的集団構造の調査は行われてきませんでした。

そこで東京大学のグループは、民間のゲノム解析サービスが収集した約1.1万人分の遺伝子型データを用いて解析を行いました。先行研究では、沖縄の人は縄文人のDNAを特に濃く受け継いでいることが報告されています。今回の解析でも沖縄の人は、特色あるグループを形成することが示されました。次に、各都道府県から無作為に50名ずつ選び集団ごとで比較したところ、北海道・東北地方、近畿・四国地方、九州・中国地方はそれぞれ遺伝的に近縁な集団としてクラスターを形成しました。一方で、関東や中部地方は近縁な集団としてまとまらないこともわかりました。

さらなる解析により、近畿と四国の人々は中国・北京の漢民族と遺伝的に近く、沖縄の人とは遺伝的に遠いことが示されました。九州北部は中国や朝鮮半島と距離的に近いにもかかわらず、沖縄の人と遺伝的に近いこともわかり、九州よりも近畿や四国に渡来人がより多く流入した可能性を示しています。研究が進むことで遺伝的背景の理解が深まり、疾患に関わる遺伝子変異の同定が進むと考えられます。また、日本列島人成立の過程もさらに明らかになっていくと期待されます。

 

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