家畜と祖先種のゲノム研究(NL63)
ヒツジとヤギは、肥沃な三日月地帯と呼ばれるメソポタミア地方で、1万500年ほど前に家畜化されたと考えられています。
フランスを中心とした研究グループは、家畜化によりゲノムに生じた変化を調べるために、ヒツジの祖先種と考えられているアジアムフロンと、ヤギの祖先種のベアゾール(パサン)とイラン、モロッコ、フランスのヒツジとヤギのゲノムを比較しました。家畜化の過程では、優秀な個体からできるだけ多くの子孫をつくることになるので、個体間のDNA配列の違いが少なく(多様性が低く)なります。
ゲノム上でも、選抜の目的となる形質に影響する変異の付近では、DNA配列の多様性が低下しています(「選択的一掃」と呼ばれています)。そのような領域のひとつで、ヒトではブロンドの髪色と関係するKITLG遺伝子の近傍を詳しく調べたところ、多様性の低下する位置がヒツジとヤギで異なっており、変異が遺伝子に与える影響が異なる可能性が示されました。どちらも角が小さくなる、白い毛色、穏便な性格など、いくつかの共通の形質が選抜の目標とされてきたにもかかわらず、ゲノムに異なる変化が起きたことで、選抜の目標が変化し、ヒツジとヤギの違いが生じたと考えられます。
もし、もう一度家畜化の過程を繰り返すとしたら、ヒツジとヤギは同じ姿をしているでしょうか?
Convergent genomic signatures of domestication in sheep and goats.
F Alberto et. al.
Nature Communications 9, 813. (2018)
doi: 10.1038/s41467-018-03206-y