ヒーラ誕生100年(NL73)
1920年8月1日に、米国で一人の女性が誕生しました。彼女の名前は、ヘンリエッタ・ラックス。残念ながら彼女は、31歳で進行性の子宮頸がんにより亡くなりましたが、彼女由来の細胞(HeLa細胞)は今も世界中の研究室で生き続けています。
ラックスさんが受診したとき、がん細胞のサンプルを採取した病院の医師は、その一部を研究者に渡しました。通常、ヒトから採取された細胞を体外で培養した場合、限られた回数で細胞の増殖が止まってしまいますが、ラックスさんのがん細胞由来の細胞は、安定して増殖を繰り返しました。
この世界初となるヒト細胞株は彼女の名前から2文字ずつ取ってHeLaと名付けられましたが、ラックスさんの家族がそのことを知ったのは、20年以上経ってからのことでした。なぜなら、提供者の匿名性を守るために偽名がつけられていたからです。その後もHeLa細胞は世界中の研究室で培養され、ポリオワクチンの開発やヒトのテロメラーゼ発見など、多くの研究に貢献しました。
2013年には、HeLa細胞のゲノム配列が解読されましたが、その公開に際しては、米国国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長が自らラックスさんのご遺族に説明して、条件付きでの同意を得たとのことです。
医学研究における被験者の同意の重要性の周知は、彼女の存在があってこそと言えます。ラックスさんの貢献に、あらためて感謝したいと思います。
Henrietta Lacks: science must right a historical wrong.
Nature (2020)
DOI:10.1038/d41586-020-02494-z