キリン:進化研究の千両役者(NL75)
ここ数年で、一度に1万塩基を超える⾧さの解読ができるロングリードシークエンサーが普及しました。そして、複数の解析法を組み合わせることにより、以前よりも正確にゲノムのDNA配列情報を得られるようになってきています。
今回、中国を中心とする国際研究グループは、キリンのゲノムを詳細に解析し、キリンで強く選択を受けた遺伝子101個と急速に進化した遺伝子359個の計460個をみつけました。そして、この中のひとつで、既に報告のあったFGFRL1遺伝子にみられた変異をゲノム編集技術によりマウスに導入しました。このマウスは、首が⾧くなることはありませんでしたが、首が⾧いことに適応した機能と関連づけられる、
①血圧を上げる薬を与えても血圧がほとんど上昇しない、
②脊椎や脚の骨密度が高い、
などの変化が観察されました。
今回みいだされた460個の遺伝子には、捕食者の警戒に必要な視覚や聴覚に関わる遺伝子、食事などと関係する嗅覚の遺伝子、キリンの短い睡眠時間に合わせた概日リズムに関わる遺伝子や睡眠と覚醒に関わる遺伝子も含まれます。これらも、キリンの生活様式の変化に適応したものでしょう。今後は、それぞれの遺伝子がどのようにキリンのボディプランに関わっているかを地道に調べていくことになります。
200年前にラマルクが自身の説に用いてからずっと、キリンは進化を考えるヒントを我々に与え続けてくれているようです。
A towering genome: Experimentally validated adaptations to high blood pressure and extreme stature in the giraffe.
Liu C, et.al,
Science Advances (2021)