運動能力向上に関わる遺伝子(NL80)
陸上競技のスプリンターの才能はどう発揮されるのでしょうか? 筋肉と骨を結ぶ腱(けん)や、骨と骨をつなぐ靱帯はさぞ強靭に違いありません。
東京医科歯科大学などの研究グループは、これまでにMkx遺伝子が腱や靱帯組織の正常な機能発揮や、伸展などの機械刺激に対する靭組織の応答に重要であることを明らかにしてきました。しかしながら、この機械刺激を細胞がどのように認識するのか不明でした。
本研究では、運動に関係する機能性タンパク質のひとつであるPIEZO1が腱細胞でたくさんつくられていることに注目し、人為的にPIEZO1を恒常的につくるマウスを作製して、腱における役割を調べました。その結果、体全体で、もしくは腱細胞特異的にPIEZO1を恒常的につくらせたマウスでは、ジャンプ能力や走行速度が向上することや、腱組織が肥大化することを明らかにしました。
ヒトのPIEZO1が恒常的につくられる変異は、西アフリカ系に見られるE756delとして知られていますが、ルーツを同じくするジャマイカ人のスプリンターと一般人で調査したところ、この変異の頻度はスプリンターで有意に高いこともわかりました。未来のオリンピックでは、このPIEZO1の人為的改変が遺伝子ドーピングの検査対象になるのでしょうか?
The mechanosensitive ion channel PIEZO1 is expressed in tendons and regulates physical performance.
RYO NAKAMICHI, et.al,
Science Translational Medicine (2022)
*共著者であるスクリプス研究所のアーデム・パタプティアン 教授は、2021年にPIEZO1の発見を含む一連の研究が評価され ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。