脳オルガノイドの性分化(NL79)

細胞培養技術の進歩により、様々な器官に分化可能な万能細胞であるES細胞やiPS細胞から、胃や腸、肝臓、腎臓などの臓器を生体外でつくれるようになりました。それらはオルガノイド(organ: 臓器+~oid: ~に見える、の意)と呼ば れ、実際の臓器より小さく、構造も単純ですが、臓器の特定の機能を再現できることから、胚発生過程の再現や、病気の発症プロセスの研究などに用いられています。
脳のオルガノイドもつくられていて、様々な研究が行われています。マウスなどでは胎児期に大量に男性ホルモンであるアンドロゲンにさらされることにより、脳が男性化することがわかっていますが、ヒトでの変化は確認されていませんでした。
そこで、英国の研究グループは胎児期の脳発達を再現する目的で、ES細胞から脳オルガノイドをつくる途中で男性ホルモンにさらし、起こる変化を調べました。すると、男性ホルモンにさらされた細胞の容積が大きくなり、ニューロン密度の 増加も見られました。さらに詳しく調べたところ、男性ホルモンは、興奮性ニューロンに特に影響を与えていることがわかりました。しかし、注意すべきことは、今回の実験は男性ホルモンが脳の細胞に与える影響について調べられたものであり、脳の男女差に結びつけられるものではありません。
様々な研究により、ヒトでは男女差より個人差の方が大きいことが知られています。

Androgens increase excitatory neurogenic potential in human brain organoids
Kelava I., et.al,
Nature (2022)

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