脳を大きくするには(NL52)
「ヒトとチンパンジーのゲノムは99%同じ」と言いますが、どの遺伝子の働きが違うのかは、まだよくわかっていません。
2004年に理化学研究所がチンパンジーの22番染色体を詳細に調べて、8割の遺伝子でヒトとアミノ酸配列が異なっていることを報告し、よく似た遺伝子の働き方の違いの蓄積によって差が生じるのではないかと考えられています。
最近、脳の大きさに関わる2つの報告がありました。
ひとつは、FZD8遺伝子の発現量の変化で生じる大きさの違いです。脳細胞の増殖に関わる、この遺伝子の発現を調節している領域の配列がヒトとチンパンジーでは異なっていて、マウスの細胞でFZD8遺伝子の調節領域をチンパンジーとヒト型に置き換えて比較すると、ヒト型では遺伝子の発現量が30倍も多くなっていて、ヒト型のFZD8遺伝子調節領域を用いたマウス胎児脳の大きさが少し大きくなったのだそうです。
もうひとつは、チンパンジーにはなくて、ヒトだけにあるARHGAP11B遺伝子に関する報告です。これは、脳の大きさに関わる、神経細胞やグリア細胞へ分化できる能力を持った前駆細胞の増殖に関わる遺伝子で、マウス胎児脳に導入すると、前駆細胞が増殖して脳が大きくなり、マウスの脳にはないシワが発生するのだそうです。
脳が大きくなったマウスは賢いのかな?
JL Boyd et al.
Human-chimpanzee differences in a FZD8 enhancer alter cell-cycle dynamics in the developing neocortex
Current Biology 2015 Mar 16;25(6):772-9 Epub 2015 Feb 19
DOI: 10.1016/j.cub.2015.01.041M Florio et al.
Human-specific gene ARHGAP11B promotes basal progenitor amplification and neocortex expansion
Science 2015 Mar 27;347(6229):1465-70 Epub 2015 Feb 26
DOI: 10.1126/science.aaa1975