神経細胞の中の遺伝子変異(NL62)
脳の神経細胞(ニューロン)のように増殖しない細胞のゲノムDNA配列にも、老化によるDNAの変異がみられるのか?数百の細胞をまとめて解析する従来のDNA配列解析法では、個々の細胞でそれぞれ異なる変異を検出することができないことから、その疑問は謎として残っていました。
今回、米国の研究グループは、アルツハイマー病で最初に病変がみられる海馬と、ヒトで最も高度に発達した脳の部分である前頭前皮質のニューロンを材料に、最新技術を用いて生後4ヶ月から82歳の様々な年齢の死後脳から採取した一細胞ごとのゲノム配列を調べました。変異の数は両方の部位で年齢と相関がみられました。20歳以下のニューロンではDNA複製と関係する変異が多いのに対し、20歳を超えるとDNA損傷による変異が多くみられました。
前頭前皮質では、20歳以下ではニューロン当たり1000個程度ですが、80歳では約3000個と3倍多く変異がみられます。また、海馬では前頭前皮質より多く変異があったことから、脳の部位によって変異の入りやすさに差があることが示されました。
DNA修復に関わる遺伝子の変異が原因で発症し、実際の年齢より早く老化がみられる早老症(コケイン症候群と色素性乾皮症)の患者さんでは、発症していない人の2倍以上多く変異があることからも、DNAの変異と老化の関係が示唆されています。ゲノムの老化の研究が進めば、体の老化を防ぐ方法が明らかになるかもしれません。
Aging and neurodegeneration are associated with increased mutations in single human neurons.
Lodato M, et. al.
Science (2017)
DOI: 10.1126/science.aao4426