最も少ない遺伝子をもつ生物 の作製に成功(NL55)
DNAは、A、G、T、Cのいずれかの塩基を含むヌクレオチドが直鎖状につながった高分子化合物で、「生命の設計図」であるゲノムDNAは、生き物の遺伝に関わっています。
現在では、100個程度のヌクレオチドがつながったものをDNA合成機で人工的に合成することが可能で、2010年には、米国の分子生物学者、クレイグ・ヴェンターが、人工的に合成したDNAの断片をつなぎ合わせて、マイコプラズマという細菌のゲノム(約100万塩基対)を作製し、DNAを除いた別のマイコプラズマに入れて自己増殖させることに成功しています。
その後、彼らは、生きるのに必要な最小限の遺伝子セットを決めるため、この人工ゲノムから生きるために必要でないと思われる遺伝子を除いて自己増殖能をテストしました。最終的に 、生存と複製に必要な、たった473個の遺伝子をもつゲ ノム(約53万塩基対)の作製に成功しました。
この人工ゲノムをもつ細菌(JCVI-syn3.0)は、自然界に存在する生き物と比べて最も小さなゲノムと最も少ない遺伝子をもつ生物となりました。より単純化した細菌を研究することにより、生命現象の理解が深まるほか、有用な物質を 合成させるために必要な長い遺伝子セットをゲノム上に導入することが可能になり、細菌を有用物質の生産工場にすることができます。
Design and synthesis of a minimal bacterial genome.
Hutchison III CA. et al.
Science Vol. 351, Issue 6280 (2016)
DOI: 10.1126/science.aad6253