新たな細胞死のしくみを発見!(NL80)
私たちの体をつくっている細胞はいろいろな働きをしますが、細胞ができてから死ぬまでの平均寿命も細胞によって違います。心臓や神経の細胞は一生使われるのに対して、骨の細胞で約10年、赤血球では約120日、胃や腸の上皮細胞はたった1日の寿命です。
こうした細胞はどのようなしくみで死んでいくのでしょうか? 火傷や薬品による傷害や、血の巡りの悪さにより組織や細胞が死ぬことを壊死(ネクローシス)と呼ぶのに対して、生体内での自発的な細胞死を細胞の自殺(アポトーシス)と呼びます。オタマジャクシが成長してしっぽが無くなるなど、不都合な細胞を取り除くのがアポトーシスです。これとは別に自らを食べてしまう自食(オートファジー)と呼ばれる細胞死では、栄養飢餓状態で自らのタンパク質などを分解して、生命維持のために再利用しています。
理化学研究所と生理学研究所の研究チームは、これまでに知られていなかった細胞死のしくみを発見しました。日々入れ替わる動物の腸細胞の細胞死が、細胞内のタンパク質が“段階的”に失われていき、最終的に“DNAも失われる”細胞死であることを見つけたのです。ショウジョウハエを使った実験ではタンパク質やDNAを蛍光標識することでその存在を追跡して いますが、この新しい細胞死が起きた場所は顕微鏡下で真っ黒に見えることから、古代ギリシャ語の「暗黒」を意味する「エレボス」にちなんで暗黒の細胞死(エレボーシス)と名付けられました。
Erebosis, a new cell death mechanism during homeostatic turnover of gut enterocytes.
Hanna M Ciesielski, et.al,
PLOS Biology (2022)