感染症を防ぐ新しい方法(NL49)
「研究紹介」でヒトの腸内細菌の話をご紹介しましたが、昆虫の世界ではもっと複雑です。
限られた種類の食物(植物の汁液、人畜 の血液など)からしか栄養を摂取できない種類では、「必須共生細菌」という、生育に必須な微生物がいることが知られています。また、ボルバキアと呼ばれる共生細菌は、感染したオスの蚊が感染していないメスと交配した場合、その受精卵の発生を妨げることがあります。
このしくみを利用して、マラリアやデング熱などを媒介する蚊を減らすことができるかどうかを豪州の研究グループが検討しました。
研究室の中で蚊を飼育し、ショウジョウバエ由来のボルバキアなどさまざまな株を感染させ、子孫を残すことができるか検討しました。聞くだけでもかゆくなりそうな実験を行って、実際にマラリア原虫やデング熱ウィルスを持つ蚊を減らすことができることを示しました。
ボルバキアに感染した場合、ハマダラカではマラリア原虫の保持率が減少したり、ネッタイシマカでは寿命が短くなったりという効果も報告されています。
農薬や組換え技術を使うことなく感染症を防ぐことができるということで、ブラジルでデング熱対策に感染させた蚊を1万匹放出した というニュースも入ってきました。この方法がどれだけ感染症対策に有効かどうかや環境に対する影響は未知数ですが、有効な方策として普及する可能性があります。
T Walker et al.
The wMel Wolbachia strain blocks dengue and invades caged Aedes aegypti populations.
Nature 476, 450–453 (25 August 2011)
DOI:10.1038/nature10355
A Hoffmann et al.
Successful establishment of Wolbachia in Aedespopulations to suppress dengue transmission.
Nature 476, 454–457 (25 August 2011)
DOI:10.1038/nature10356