全ゲノム解読の有効性(NL68)

形質や疾患に関連する遺伝子変異を探すには、約50万の一塩基多型(SNP)をDNAアレイを用いて調べる、ゲノムワイド関連解析(GWAS)がよく用いられています。しかしながら、多くの遺伝子が関わる形質や疾患については、遺伝率を充分説明できるまでには至っていません。例えば身長差に関連する2008年のGWAS調査では、双子研究からは遺伝率は約80%と推定されているにもかかわらず、見つかった40以上の変異を統合しても遺伝率の5%しか説明できていませんでした。

この『失われた遺伝率』を埋める変異を見つけるために、オーストラリアの研究グループは、欧州系の21,620人の全ゲノムを解析したデータから、500人に1人、あるいは5,000人に1人にしか見られない稀な変異を探しました。そして、一般的な変異と統合することにより、身長については79%、BMIについては40%と、双子研究によって示された値とほぼ同じ遺伝率を推定することができました。このことは、全ゲノム解析が疾患に関連する稀な遺伝子変異を見つけるのにも有効であることを示しています。

このような解析には、ゲノムの民族集団差を考慮する必要があり、いくつかの国では数百万人規模のゲノム解析プロジェクトが行われています。日本も、ようやく来年度から3年間で10万人分のゲノム解読を行うと発表しましたが、世界の流れから数歩出遅れた感は否めません。

Genetic study homes in on height’s heritability mystery.
Geddes L.
Nature (2019)
DOI:10.1038/d41586-019-01157-y

和訳版:背丈の「失われた遺伝率」が見つかる
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7
DOI:10.1038/ndigest.2019.190710

Recovery of trait heritability from whole genome sequence data
Wainschtein, P. et al.
Preprint at bioRxiv (2019)
DOI:10.1101/588020

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