ミルク飲用の歴史(NL81)

ヒトはなぜ大人になっても乳製品を摂取するのでしょうか。哺乳動物は一般的に、離乳するとミルクをうまく消化できないようになります。これは乳糖不耐症と言って、ミルクに含まれる乳糖を分解する酵素の遺伝子発現が低下していくからです。成長して他の食物から栄養が得られるようになると、酵素が不要になるからとされています。
不思議なことに、ヒトでは大人になってもこの遺伝子が発現する性質(ラクターゼ活性持続症/乳糖耐性)を獲得した人々がいます。そして、この性質を持った人々を中心にして酪農の文化が広 がった、とこれまで考えられていました。

今回、欧州の研究グループは、550ヶ所以上の遺跡から出土した土器片に残る動物性脂肪を分析し、ヤギや羊、牛のミルクを摂取する地域の分布を過去9000年にわたり詳細に調べました。また、同時代の1,786人のゲノム解析から、乳糖耐性の変異は6700-6600年前には稀で、3000年前頃になって広まり始めたことがわかりました。このことは、ほとんどの人々が乳糖不耐症であった頃からミルクが広く利用されていたこと、すなわち、乳糖耐性の変異とミルクの利用には相関がないことが明らかになったのです。
この結果は、英国バイオバンクの50万人を対象とした乳糖耐性の変異と乳製品の好みに関する調査結果からも裏付けられています。ではなぜ乳糖耐性の変異が世界人口の1/3にまで広まったのか。研究グループでは、飢餓や病原体の流行が原因とみていますが…。

Dairying, diseases and the evolution of lactase persistence in Europe.
Richard P. Evershed, et.al,
Nature (2022)

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