ヒトX染色体全配列(NL73)
「ヒトゲノム計画」の終了から20年近くになり、幾度も改訂版が出ていますが、最新の国際参照配列(GRCh38)にも数百ヶ所のギャップと呼ばれる未解読部分があります。特に似た配列が繰り返し現れる反復配列の部分は一対の染色体の間でも大きく異なっていて、従来の解析方法ではつなぎ合わせることができませんでした。
そこで、胞状奇胎という同じゲノムを対で持つ特異な細胞に由来するDNA配列を解読する試みが、2014年以降次々と報告されています。そして今回、この細胞をナノポアシーケンサーMinION(ミナイオン、と呼ばれています)で解析することにより、X染色体をテロメアからテロメアまでつなげることができた、と米国のグループが報告しています。
ギャップのうち最大のものはセントロメア領域で、約310万塩基対あります。この領域は、1ユニットが171塩基対からなるaサテライト配列が数千回並んでいるなど、複雑な構造をしています。MinIONにより、7万塩基以上(今回の最長は10.4万塩基)のDNA配列を連続して解読することが可能になり、X染色体に29あったギャップをすべて埋めることができました。グループでは、他の染色体の解読も進めており、ヒトゲノムを“完全に”解読するのにもそう時間がかからない、としています。
Telomere-to-telomere assembly of a complete human X chromosome.
Miga KH, et.al.
Nature (2020)
DOI:10.1038/s41586-020-2547-7