ヒト発生学の ブラックボックスを覗く(NL78)
ヒトの受精卵(胚:はい)を用いた研究は、最近まで受精後14日間までに制限されていました。40年ほど前に英国でヒト胚の利用について議論になり、14日齢までは感覚器官などが形成されていないため1人のヒトとしては認められないが、それ 以降はNGという倫理的監督基準が1979年に設けられたからです。そのため、ヒトの身体づくりのもととなる「原腸形成期:初期胚(胞胚)が3つの胚葉を持つ胚(原腸胚)に変化する、初期胚発生における決定的な瞬間」の知識は、古い研究やウニ・ヒトデ・マウスなどの実験動物との比較から推測されたものであり、実際と異なる可能性が指摘されています。
一説では、着床(5.5日齢)前に3割、器官形成期(14~28日齢)に2割のヒト胚が発育に失敗すると言われており、この時期を詳細に研究する必要性が議論されてきました。そして、国際幹細胞学会は2021年5月に「14日ルール」の緩和を含むガイドラインを発表しました。
この結果を受けて、 英独の研究グループは、同意のもとに提供された受精後16-19日齢の胚を用いて、一つ一つの細胞 で発現している遺伝子を調べました。胚由来の1,195細胞が採取され、様々な情報を得ることができました。受精後19日目までに神経細胞は確認できないので痛みを感じないこともわかりました。
得られた情報は、ヒトの形態形成研究の基盤となり、疾患治療や再生医療分野への貢献が期待されますが、ヒトの命という倫理的な側面からもさらなる議論が必要です。
A peek into the black box of human embryology
Single-cell transcriptomic characterization of a gastrulating human embryo
Tyser RCV, et.al,
Nature (2021)