ゾウはがんになりにくい?(NL54)
がんはある細胞の遺伝子に変異が入って細胞分裂のコントロールができず細胞が異常に増えてしまう病気です。遺伝子に変異が入る頻度が同じだとしたら、ヒトより100倍も細胞の数が多いゾウは、がんになるリスクが高いのでしょうか?
ゾウの死因を調べたところ、そのようなことはありませんでした。ゾウはその大きさにもかかわらず、50から70歳の寿 命があり、がんになる頻度もヒトの半分から5分の1です。
なぜゾウががんになりにくいのか?長年の 疑問に答えるひとつの興味ある答えが出ました。
アフリカとアジアのゾウのゲノム配列を調べた結果、p53というがん抑制遺伝子の数がヒトでは両親からもらったひと組 (2コピー)であるのに対して、ゾウでは20組(40コピー:38コピーは元のp53遺伝子から作られたmRNA由来の遺伝子)もありました。ヒトのがんのおよそ半分にはp53遺伝子の変異が認められ、p53が機能しないとがんになります。p53はDNA損傷の見張り役として働き、DNAに損傷があるときにはDNA修復の命令を出し、損傷の度合いにより細胞の分裂を中止したり、細胞を自滅するようにします。
ゾウの細胞に人為的に変異を誘発させると、DNAの損傷を修復することなく、細胞を自滅に追い込みました。これが細胞をがん化させないひとつの手段かもしれません。
Potential Mechanisms for Cancer Resistance in Elephants and Comparative Cellular Response to DNA Damage in Humans.
Abegglen L. M. et al.
JAMA. 2015;314(17):1850-1860
doi:10.1001/jama.2015.13134.
TP53 copy number expansion correlates with the evolution of increased body size and an enhanced DNA damage response in elephants.
Sulak M. et al.
Preprint at bioRxiv (2015)
doi: http://dx.doi.org/10.1101/028522