イヌの多様化における遺伝的背景(NL74)

イヌは、体の大きさや毛色、性格の違うさまざまな犬種がヒトによって作り出されていて、ヒトの遺伝学への応用が期待されることから、ゲノムの解析が進んでいる生物のひとつです。とはいえ、複雑な交配を経ている現存の品種からは、オオカミから分かれて以降の過去の歴史をたどることはたいへん難しいようです。

そこで、英国を中心とするグループは、欧州から中近東、シベリアで見つかった約1.1万年前から1000年前の古代犬27匹分の骨からDNAを回収し、ゲノムを解析しました。その結果、約1.1万年前の最終氷期の終わり頃には、中近東、ロシア、シベリアなどで大きく分けて5つの犬種ができ、その後の交配により現在の犬種の祖先となる7つの犬種が誕生したことを明らかにしました。これらの犬種は、おそらく今は絶滅したハイイロオオカミから誕生し、その後はオオカミのゲノムが混入した痕跡がないこともわかりました。また、ヒトが農耕を始めた頃に、イヌもデンプンの分解に関与する膵型アミラーゼ遺伝子のコピー数が増加し、雑食性を持つようになるなど、ヒトと密接に関わって変化してきたこともわかりました。

日本では、イヌの骨は古くは縄文早期にあたる9500年前の遺跡で発見されており、縄文人が大陸から一緒に連れてきたのではないかと考えられています。日本犬は比較的オオカミに近い犬種とのことですが、今後の研究により、日本犬の成り立ちも明らかになると期待されています。

 

Origins and genetic legacy of prehistoric dogs.
Bergström A, et.al,
Science (2020)

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