アゲハチョウの擬態のしくみ(NL52)

ある生物が別の生物の形態や行動を真似る「擬態」は、ダーウィンの時代から科学者の関心を引きつけていました。
アゲハチョウの仲間で、毒を持たないシロオビアゲハのメスの一部(擬態型)は、毒を持つベニモンアゲハに翅の模様を似せることで、鳥などの捕食者から免れていると考えられています。1970年代には、シロオビアゲハの擬態型メスとなる原因遺伝子が常染色体のH遺伝子座にあることが遺伝学的に示されていましたが、昨年、米国とインドのグループが、ゲノムワイド関連解析により、H遺伝子座にある、昆虫の性決定に関わるdsx遺伝子がシロオビアゲハの擬態に関わっていることを発見しました。

東京大学を始めとした日本のグループは、シロオビアゲハと、近縁の擬態をしないナミアゲハのゲノムを初めて解析し、H遺伝子座と呼ばれる領域には染色体の逆位があること、逆向きになったdsx遺伝子には変異が入っていることなどを明らかにしました。さらに東大のグループは、チョウの蛹の翅に直接、遺伝子を導入する系を開発し、擬態を示すメスの翅の一部でdsx遺伝子の働きを抑制する実験を行いました。実験では、遺伝子の働きを抑制した部分でのみ擬態型の模様が消失して、非擬態型と同じ模様になったことから、dsx遺伝子が擬態型への模様の変化を生み出すことを確認しました。

K Kunte et al.
doublesex is a mimicry supergene Nature 2014 Mar 13;507(7491):229-32
Epub 2014 Mar 5
DOI: 10.1038/nature13112

H Nishikawa et al.
A genetic mechanism for female-limited Batesian mimicry in Papilio butterfly Nature Genetics 2015 Apr;47(4):405-9 Epub 2015 Mar 9
DOI: 10.1038/ng.3241

東京大学プレスリリース

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