腸に細菌が共生できるわけ(NL81)
腸内細菌は健康と深い関係があることが知られるようになりましたが、腸内細菌と宿主の共生関係がどのように成立したのかは謎です。共生には多くの進化的イベントと長い時間が必要だったのではないかと想像されます。ところが、その共生進化は意外とシンプルで、時間もそれほどかからないかもしれないという論文が産業総合研究所を中心としたグループから発表されました。
チャバネアオカメムシの腸内にはPantoea属の細菌が共生しており、この菌がいないとカメムシは生きられません。そこでこの菌の代わりにヒトなどの腸内細菌である大腸菌を共生細菌に進化させる実験が試されました。腸内細菌をすべて取り除いたカメムシを宿主として、DNA修復ができず変異率が100倍になった大腸菌を与えました。最初は大部分が幼虫で死に、羽化できるのは5~10%でしたが、数世代経て正常に成長できるようになったカメムシが現れました。その腸内から取り出した大腸菌には、栄養源の変化に応じて多くの遺伝子の発現を調節する遺伝子に変異が起きていました。また、その変異だけをもった大腸菌を無菌カメムシに与えても正常に育ちました。たったひとつの変異だけで大腸菌はカメムシの必須共生細菌に進化できたのです。
腸内細菌の共生メカニズムの研究がこのようなシンプルな実験系で進められ、いずれ私たちの健康維持に応用されると期待されます。
Single mutation makes Escherichia coli an insect mutualist.
Ryuichi Koga, et.al,
Nature Microbiology (2022)
https://doi.org/10.1038/s41564-022-01179-9