第3回「太陽と月と色素細胞の進化」

講師:山本博章(長浜バイオ大学名誉教授・客員教授)

配信日時:2024年3月16日午後1時〜3月24日午後12時

 自然界の色どりには目を奪われるばかりです。生態系の一員である私たち哺乳動物も様々な色やそのパターンを表現することができます。いわゆる体色の表現(発現)には、メラニン色素を合成するメラニン色素細胞が深くかかわっています。この細胞たちは皮膚での紫外線防御だけでなく他にもさまざまな役割を担っていそうなのです。それらを知るには、彼らがどのように生まれて、体のどこに分布し、何をしているのか(していそうなのか)、またどのような遺伝子がそれを可能にするのか、を知る必要があります。今回は哺乳動物のメラニン色素細胞について、このような観点から紹介します。

 哺乳動物の色素細胞が生まれる(発生)経路には2種類あります。一方は脊椎動物の胚特異的に形成される神経冠(堤)細胞に由来する経路で、分化したメラニン色素細胞はメラノサイト(melanocyte)と呼ばれます。この色素細胞の前駆細胞(メラノブラスト)は、皮膚だけでなく、内耳や心臓、虹彩の外界側等にも移動して定着します。たとえば,毛穴(毛包)に定着すれば,毛になる細胞に色素顆粒(メラノソーム)を供給して毛色発現に必須の細胞となります。毛穴以外の皮膚(毛包間の表皮)に定着すると、メラノソームを表皮細胞(ケラチノサイト)に受け渡し,皮膚色発現に深く関わります。

 もう一方のメラニン色素細胞は,発生中の脳(前脳)から分化するメラニン色素細胞で,「網膜色素上皮(retinal pigment epithelium, RPE)」と呼ばれます。この細胞の大きな特徴は,たった1層の構造をとることで,視覚に必須の細胞たちです。

 これらメラニン色素細胞の発生やメラニン色素合成には必須の遺伝子群があります。例えば、メラノブラストの発生に関係する遺伝子群の機能が変化すると、白斑(まだら)になることが多いのです。また分化後でも、メラニン合成やメラノソームのケラチノサイトへの供給に係る遺伝子の指令がうまくいかない場合は明るい色の毛になります。これら遺伝子群を対象とした解析は、メラニン色素細胞の不思議な働きの仕組みを明らかにしつつあります。例えば白斑遺伝子の働き(の変化)によって、メラノブラストがうまく分化できない場合は(マウスですと全身白斑、つまり全身が真っ白な毛になることもあります)難聴になる可能性が高いのです。このような遺伝子と色素細胞の働きの関係について、いくつかの例を聞いて下さい。

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