ベニクラゲの若返りのしくみを明らかにするために

2016/8/19

研究開発

~生活環のステージ別に発現する遺伝子の探索~

ベニクラゲ類Turritopsis spp.は、世界中の暖かい海に生息する、体長が数ミリの小さなクラゲです。ベニクラゲ類は多細胞動物では唯一、若返りが繰り返し可能な動物で、成熟した個体からもポリプ*1と呼ばれる若い成長段階の途中の状態に戻ることができます(図:緑矢印)。京都大学の久保田 信博士は、人為的に刺激を与えることでチチュウカイベニクラゲの同一個体の連続した14回もの若返りに成功しています。
このベニクラゲ類の若返りのしくみの解明は、若返りのみならず、細胞の再生や脱分化*2の理解につながると期待されています。しかしながら、ベニクラゲ類ではまだゲノムが解析されておらず、どのような遺伝子が発現しているかの解析も行われていません。

そこで、和歌山県田辺湾産のニホンベニクラゲを11個体用いて、若返りのしくみの解明のために、生活環のステージごとに特異的に発現している遺伝子の探索を行いました。クラゲを針で突いて人為的に若返らせて、4つのステージ:(I)クラゲ未成熟個体、(II)針で突いて団子状態になったもの、(III)団子状態から根を生やし始めたもの、(IV) 若返ったばかりのポリプ、を用意しました。
それぞれのステージからメッセンジャーRNA(mRNA)を全て抽出し、次世代シークエンサーを用いて配列を解析しました。取得した配列断片を解析した結果、90,327コンティグ*4得ることができました。これらの配列を利用してデータ解析を進め、各ステージで特異的に発現する遺伝子や機能遺伝子群を推定しました。これまでに、クラゲ個体では他のステージと比べて多くの種類の遺伝子が多岐に発現していること、ポリプへの若返りの途中過程では、異化、二次代謝、触媒活性、DNA結合などの機能を持つ遺伝子が多く発現していることなどが分かりました。

この研究成果は、ベニクラゲ類では初めての分子生物学的アプローチによる研究となり、若返りのしくみを解明するための基礎的な情報となります。

かずさDNA研究所は、各ステージからのRNAの回収と次世代シークエンサーによる発現遺伝子のデータ収集およびデータ解析を、京都大学の久保田 信博士は、ニホンベニクラゲの採集と、若返り各ステージのサンプル作製を行いました。

研究成果は、2016年8月9日付の動物学の国際誌Zoological Scienceに公開されました。

*1ポリプ:クラゲなど刺胞動物の体の構造のひとつで、イソギンチャクのように座着して触手を広げる形態のものをいう。
*2脱分化:分化*3した細胞が,未分化の状態に変化すること。
*3分化:多細胞生物で、特殊化していない細胞が神経のような特化した細胞細胞になるなど、形や機能が変化することをいう。
*4コンティグ:今回の解析では、次世代シークエンサーを用いて得られた大量の短い配列断片をつなぎ合わせて構築した長い転写産物の配列を指す。選択的スプライシングでできたもの、遺伝子多型(個体ごとの塩基配列の違い)は別のコンティグに分類しているため、実際の遺伝子数の数倍になる。ベニクラゲの遺伝子数は他の生物との比較から2万種類ほどと予測されている。

図:ベニクラゲの若返りを含む生活環

一般的なクラゲと同様のサイクル(赤矢印)
若返りサイクル(緑矢印)
IからIVは、実験に使用した発生ステージを示す
I:クラゲ個体(未成熟)
II:針で突いて団子状態になったもの
III:団子状態から根を生やし始めたもの
IV:若いポリプ(団子状態を経て発生したもの)

論文情報:
Hasegawa Y, Watanabe T, Takazawa M, Ohara O, Kubota S.
De Novo Assembly of the Transcriptome of Turritopsis, a Jellyfish that Repeatedly Rejuvenates.
Zoological Science, 33(4): 366-371.

論文(英文)のURL: http://www.bioone.org/doi/abs/10.2108/zs150186