ヒト培養細胞から1万種類以上のタンパク質を一斉分析するシステムの開発

2022/5/18

研究開発

(写真:弊所の質量分析装置が並ぶ部屋)

かずさDNA研究所は、希少難病や癌などの遺伝学的検査を行なっています。併せて、より多くの疾患を対象にするための新たな検査法の開発にも取り組んでいます。

この度、タンパク質を網羅的に解析する新しいプロテオーム解析法により、分析時間2時間のシングルショット解析で、ヒト培養細胞からこれまでの限界を越えた1万種類以上のタンパク質を同定することに成功しました。プロテオーム解析の検出感度が上がったことにより、疾患に伴う変化があっても微量なためRNAでしか捉えられなかったレベルのものが、タンパク質で検出できるようになりました。これによって、遺伝学的検査の迅速化と低コスト化につながることが期待されます。

今回の技術的な鍵は、微量なタンパク質が多量なものに隠れてしまうことを回避するために、データ非依存的分析(DIA)法とイオンモビリティー質量分析装置を組み合せて条件を至適化したことでした。

この方法の有効性を実証するためのマウスを用いた実験で、ストレスの有無によりマウスの糞便のマウス由来のタンパク質のプロファイルが劇的に変化することを明らかにしました。糞便中には腸内細菌由来のタンパク質が大量に含まれますが、この技術によってその中にごく微量にしか存在しないマウス由来のタンパク質の変化を同定できたのです。このことは、将来的に糞便中のバイオマーカーをストレスの指標にできる可能性も示唆してくれます。

今後、本研究で開発したプロテオーム解析システムが、バイオマーカーの探索をはじめ生物・医科学の幅広い研究分野へ応用されることが期待されます。

論文タイトル:Single-shot 10K proteome approach: Over 10,000 protein identifications by data-independent acquisition based single-shot proteomics with ion mobility spectrometer
著者:Yusuke Kawashima, Hirotaka Nagai, Ryo Konno, Masaki Ishikawa, Daisuke Nakajima, Hironori Sato, Ren Nakamura, Tomoyuki Furuyashiki, Osamu Ohara(神戸大学との共同研究)
掲載誌:Journal of Proteome Research
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jproteome.2c00023

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