ニホングリのゲノムを解読 ~ゲノム構造から見えてくるバラ類植物の進化~
2021/9/28
研究開発かずさDNA研究所と農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、イタリア・トリノ大学と共同で、ニホングリのゲノムを高精度に解読(ゲノムサイズ:約7.2億塩基対)し、ゲノムからは69,980個のタンパク質コード遺伝子が予測されました。
クリの仲間は4種類あり、アメリカグリとヨーロッパグリは病虫害に弱く、これまで深刻なダメージを受けてきた経緯があります。また、チュウゴクグリは収量が少なく、ニホングリは渋皮がむけにくいため、果実の品質が劣ると評価されています。今後、ニホングリのゲノム情報の他、4種類のクリに見られる14,973個の一塩基多型のデータを活用することで、優れた性質をもつクリ品種の作出が期待されます。
ニホングリはバラ類のブナ目に分類されています。今回、ニホングリのゲノム配列を114種類の植物のゲノム配列と比較しました。被子植物系統グループ分類体系(APG植物分類体系)では、ブナ目は、バラ類の中でも草本植物が多いウリ目やマメ目と近縁であると考えられてきましたが、今回の解析から、ニホングリはリンゴなどバラ目の木本植物とゲノム構造が類似していることがわかり、バラ類植物のゲノム進化の過程を考えるひとつの手がかりが得られました。
研究成果は国際学術雑誌 DNA Research において、8月23日(月)にオンライン公開されました。
詳しくは、リリース資料 をご覧ください。
*クリは、千葉県内で年間に335トンほど生産され、生産量は全国11位(平成30年)です。
研究所の近隣では「矢那栗」が有名で、「くり拾い」を目的とした観光農園もあります。
論文タイトル:Chromosome-level genome assembly of Japanese chestnut (Castanea crenata Sieb. et Zucc.) reveals conserved chromosomal segments in woody rosids.
著者:Kenta Shirasawa, Sogo Nishio, Shingo Terakami, Roberto Botta, Daniela Torello Marinoni, Sachiko Isobe
掲載誌:DNA Research
DOI: 10.1093/dnares/dsab016/6356520
写真:ゲノムを解読したクリ品種「銀寄(ぎんよせ)」
図:バラ類植物の系統樹
バラ類には16~20目(もく)が含まれ、被子植物の1/4以上の種を含む。ここには主要な目のみを掲載した。現在広く用いられている「被子植物系統グループ分類体系(APG植物分類体系)」では、ブナ目は、ウリ目(キュウリ、ヒョウタンなど)ともっとも近縁とされている。
表:ニホングリとバラ類植物のゲノム比較の結果
今回の解析により、ニホングリのゲノム構造は、バラ類の木本植物である、バラ目(イチゴ、リンゴなど)、キントラノオ目(ポプラ、キャッサバなど)、アオイ目(カカオなど)、ムクロジ目(ミカンなど)、およびブドウ目と似ていることがわかった。