血清プロテオーム解析で全身型若年性特発性関節炎の発症メカニズムに手がかり
 ~血清中のタンパク質大規模解析で病気の解明を目指す~

2022/2/21

研究開発

 小児の希少疾患である全身型若年性特発性関節炎(JIA)は、長期間にわたって発熱や発疹、関節炎などの全身症状をきたす原因不明の疾患です。10万人あたり4人程度発症しますが、その発症メカニズムの解明やその病気を特徴づけるバイオマーカー*1の発見には至っていません。

 弊所はこれまで、血液中のタンパク質大規模解析(血清プロテオーム解析)を行い、疾患の早期発見などに結びつけるための技術開発を進めてきましたが、DIA-MS技術*2と血清の高濃度タンパク除去処理*3を組み合わせることで、解析できるタンパク質の数を大幅に増やすことが可能となりました。

 今回、千葉県こども病院、千葉大学大学院医学研究院小児病態学との共同研究において、全身型若年性特発性関節炎の患者さんの血清分析から、合計2,700を超えるタンパク質の検出に成功しました。更に、タンパク質の詳細な分析から、この疾患で変化する591個のタンパク質を同定し、その機能解析を行った結果、新たに免疫プロテアソーム*4の存在を発見することができました。

 本研究による発見は、全身型若年性特発性関節炎の発症メカニズムの解明や治療法の確立につながる可能性があります。また、この血清プロテオーム解析は、他の病気にも応用することができるので、今後、多くの疾患メカニズムの解明やバイオマーカーの発見に役立つ可能性があります。

論文タイトル:In-Depth Serum Proteomics by DIA-MS with In Silico Spectral Libraries Reveals Dynamics during the Active Phase of Systemic Juvenile Idiopathic Arthritis
DOI:10.1021/acsomega.1c06681

用語説明:
*1)バイオマーカー:ある疾患の早期診断や治療効果などの指標となる生体データで、プロテオーム解析や遺伝子解析などで発見されるタンパク質や遺伝子などの生体物質も含まれる。
*2)DIA-MS技術:質量分析計によるプロテオーム解析手法の一つで、微量なタンパク質を同定して比較定量できる技術。 
*3)高濃度タンパク除去処理:血液中には、アルブミンやガンマグロブリンなど含有量が高いタンパク質があり、大規模タンパク質解析を妨げるため、予め血清中から高濃度タンパク質を選択的に除去するための処理
*4)免疫プロテアソーム:プロテアソームとは、細胞内である種のタンパク質の分解に関わる複合体で、免疫プロテアソームは「分子レベルでの自己と非自己の識別機構」や「自己免疫疾患」などに関わると考えられている。

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