免疫細胞の抗腫瘍効果を強化する仕組みを発見

2024/9/19

研究開発

かずさDNA研究所は岡山大学と共同で、免疫細胞の脂質代謝を調整することで、がんの増殖を抑える機能が強化される仕組みを明らかにしました。

この数年の薬や治療法の大きな進歩により、がんは治る疾患になってきましたが、依然として日本人の3 – 4人に1人はがんで亡くなることも知られています。通常、外科的な切除や抗がん剤治療、および放射線治療などが適用されますが、新たに免疫チェックポイント阻害薬*1や分子標的薬*2を組み合わせた治療が取り組まれています。しかし、これらの治療法には、特定の腫瘍にしか効果がないなどの限界があります。

最近の研究で、免疫細胞の一種であるTh9細胞*3がマウスの腫瘍に対して強い抗がん作用を持つことが明らかになりましたが、その詳細な働きについてはまだ十分に解明されていませんでした。そこで本研究では、Th9細胞の機能制御メカニズムを解明し、がん治療への応用を目指しました。その結果、Th9細胞が作り出す脂肪酸の合成を阻害することで、がん抑制効果が向上することを発見しました。また、脂肪酸合成を阻害したTh9細胞と免疫チェックポイント阻害薬を併用すると、がんがほぼ完全に消失することも確認されました。
この研究成果は、悪性黒色腫に対する新たな治療法の可能性を示しており、代謝をターゲットにした新しいがん免疫細胞療法の実現が期待されます。

研究成果は国際学術雑誌 Cellular & Molecular Immunologyにおいて、8月26日(月)にオンライン公開されました。

詳しくは、プレスリリース資料をご覧ください。

本研究の成果は、公益財団法人かずさDNA研究所研究補助金、JSPS 科研費(#23H04794、#20H03455、 #20K21618、#21K15476、#22K15502、#23K14552)の研究助成を受けたものです。

論文タイトル:Fatty acid metabolism constrains Th9 cell differentiation and antitumor immunity via the modulation of retinoic acid receptor signaling
著者:Nakajima T, Kanno T, Ueda Y, Miyako K, Endo T, Yoshida S, Yokoyama S, Asou HK, Yamada K, Ikeda K, Togashi Y and Endo Y
掲載誌:Cellular & Molecular Immunology
DOI:10.1038/s41423-024-01209-y

*1免疫チェックポイント阻害薬:がん治療における免疫療法の一つで、免疫系ががん細胞を認識し攻撃するのを助ける薬剤です。がん細胞はしばしば免疫系の監視から逃れるために「チェックポイント」分子を利用して、免疫細胞であるT細胞の働きを抑制します。免疫チェックポイント阻害薬は、これらのチェックポイント分子の働きをブロックすることで、T細胞のがん細胞に対する攻撃能力を高めます。2016年には京都大学の本庶佑教授が免疫チェックポイント分子の発見とがん免疫療法の発展に貢献したことでノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
*2分子標的薬:がん細胞や病気の進行に関与する特定の分子を標的にする治療法です。従来の化学療法や放射線療法とは異なり、分子標的薬はがん細胞の特定の分子変異や異常を狙い撃ちすることで、より精密に治療を行います。
*3ヘルパー9型T(Th9)細胞:T細胞と呼ばれるリンパ球の一種で、主にインターロイキン9(IL-9)とよばれるサイトカイン(注5)を産生することから命名されました。Th9細胞は気管支喘息などのアレルギー疾患や関節リウマチなどの自己免疫疾患の原因の一つであると考えられています。一方でがん免疫応答を促進し、がんの抑制に働くことも知られています。

 

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