独自の遺伝子資源と組換え技術を活用した「1細胞1遺伝子1コピー発現系」の開発
2024/7/16
研究開発遺伝子は様々な働きをしますが、どのような働きをしているのかを調べることを遺伝子機能解析といいます。培養細胞を用いた解析では、細胞の中に調べたい遺伝子のDNAを人為的に導入して、どのような影響があるのかを調べます。遺伝子のDNAを細胞の中に安定に導入した細胞(安定発現細胞株)を作製する際には、「ベクター」と呼ばれる“運び屋”を利用しますが、挿入されるDNAの数(コピー数)が制御できないといった問題があり、正確な機能解析が困難でした。
かずさDNA研究所が保有する独自のヒト遺伝子資源(約12,000種類の遺伝子に対する完全長cDNAクローン*1や約10,000種類のタンパク質解析用のHaloTagクローン*2)と部位特異的組換え技術(VLox・SLoxシステム*3)を活用して、1細胞内で1遺伝子を1コピーからのみ発現させる安定発現細胞株を同時に多種類作製する実験手法の開発に成功しました。
これまで、多くの安定発現細胞株を同時に作製するのは容易ではありませんでしたが、本手法によって、調べたい遺伝子セットについて安定発現細胞株を簡便に作ることができるようになりました。本研究では、ヒトでがんをはじめとするさまざまな病気の原因となる48種類すべての核内受容体*4遺伝子の安定発現細胞株を同時に作製し、遺伝子の機能を正確に比較することができました。今後、様々な遺伝子機能の解明に役立つことが期待されます。
本研究の成果は、JSPS科研費(JP19K05178)、(公財)ひまわりベンチャー育成基金、(公財)かずさDNA研究所の研究助成を受けたものです。
論文タイトル:A cell competition system with one gene expression from a single-copy gene in one cell
著者:Yoshinori Hasegawa, Megumi Nakano, Tsutomu Hosouchi, Takashi Watanabe, Izumi Yamaguchi, Manabu Nakayama, Osamu Ohara
掲載誌:PLoS One
DOI:10.1371/journal.pone.0302451
*1完全長cDNAクローン:細胞内で働く完全な遺伝子部分の情報を人工的にDNAに置き換えて単離した遺伝子資源
*2HaloTagクローン:cDNAクローンからつくられるタンパク質の機能解析が容易にできるように改変した遺伝子資源
*3 VLox・SLoxシステム:当研究所独自の技術。詳細はこちら
*4核内受容体:細胞の核の中でDNAの転写を調節する受容体。ヒトでは48種類存在すると考えられている。