分裂期染色体の構成要素は、DNAとヒストンからなるクロマチンだけではないことを明らかにしました。

2017/2/9

研究成果

~DNAは“鞘(さや)”のようなもので包まれている~

細胞が増殖して分裂するときには、複製したそれぞれの染色体DNAがコンパクトな棒状の染色体構造をとり、娘細胞に分配されます。19世紀の終わり頃に発見された”染色体”と呼ばれる構造体は、長らくクロマチン(染色質:DNAとDNAが巻きついているヒストンタンパク質)のみによって構成されていると考えられていました。最近の研究で、Ki-67と呼ばれるタンパク質が細胞分裂時に染色体の表面に結合し、染色体を分離しておく働きをもつことが報告されていますが、詳しい構造はまだよくわかっていません。

エジンバラ大学を中心とする研究チームは、細胞分裂期の染色体構造を明らかにする目的で、光学顕微鏡と電子顕微鏡で得られたデータをコンピューター・モデリング・ソフトウェアによって組み合わせた3D-CLEM(correlative light and electron microscopy)法を開発し、有糸分裂前期と有糸分裂中期染色体の詳細な三次元モデルを作成しました。

具体的には、蛍光融合タンパク質を発現させた細胞やDNAを視覚化するDAPIなどで染色した細胞で、概観(20倍)および高倍率(100倍)の光学顕微鏡画像を取得したのち、連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM) *で得られた画像を重ね合わせることで、核内のDNA配置を三次元で表しました。
連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM):樹脂包埋した試料の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)内部に組み込まれたウルトラミクロトームで薄く削り、新しく露出した表面をSEMで記録する過程を自動で連続して行うことにより連続断層像を得る最先端電子顕微鏡装置

まず、3D-CLEM法の最初の試験として、ヒトの46本の染色体と比較して明らかに小さい染色体である、かずさDNA研究所で作製された合成ヒト人工染色体(HAC)の解析を行ったところ、HAC上にある動原体構造や染色体を構成するタンパク質(CENP-C、SMC2、Ki-67)を明確に観察することができました。

次に、ヒト細胞の有糸分裂前期と有糸分裂中期の染色体を解析し、46本の染色体のほぼ全ての染色体の長さと幅、表面積のデータを得ました。そして、染色体の量やDNA凝縮の密度の計算から、染色体の内部にあるクロマチンが、有糸分裂中期染色体の全含有物の53~70%にすぎないことを発見しました。

研究グループは、残りの部分が、染色体表層で厚さ120nmほどの“鞘(さや)”を形成していると推測し、プロテオーム解析データの分析から、この鞘には、核小体に含まれるタンパク質やリボソームとRNA関連タンパク質が含まれるとしています。

また、この染色体凝集データと公共データベースに登録された各染色体の塩基対数から、HACの長さを姉妹染色分体あたり約5.58 Mb(558万塩基対)と推定しました。この数値は別の方法で得られた数値(約500万塩基対)と近いことから、HACも他の染色体と同様に凝集していることが示され、染色体の凝集機構は染色体の形や大きさに依存しないことがわかりました。

この研究は、細胞分裂時に染色体がどのようにして構成され分離されるのかを調べ直すきっかけになると考えられています。

研究成果は、2016年11月10日付けのMolecular Cell誌で公開されました。この研究は、英国エジンバラ大、リバプール大、NIH(米国国立衛生研究所)、かずさDNA研究所の共同研究です。

論文情報:
Booth DG, Beckett AJ, Molina O, Samejima I, Masumoto H, Kouprina N, Larionov V, Prior IA, Earnshaw WC.
3D-CLEM Reveals that a Major Portion of Mitotic Chromosomes Is Not Chromatin.
Molecular Cell. 64(4): 790-802. (2016)
doi: 10.1016/j.molcel.2016.10.009
論文のURL: http://dx.doi.org/10.1016/j.molcel.2016.10.009