未知の化合物の探索と活用をめざして
~システム生物学のミッシングリンク「メタボロームデータ」の整備~

2022/11/24

研究開発

かずさDNA研究所は、国立遺伝学研究所、東北メディカルメガバンク機構、株式会社さくら科学、京都大学と共同で、特定の生物に存在する未知の化合物を網羅的に探索できるデータベース(レポジトリ)を開発し、公開しました。

生物がどれほどの種類の化合物を生産・利用しているかは、いまだ明らかでありません。例えば、調理された食品には、ビタミンなどのよく知られた栄養素だけでなく、加熱などによる化学反応で生成されるさまざまな未知化合物が含まれています。生物が生産する化合物も、薬効や毒性のあるとして注目されたものはその構造が調べられていますが、生理機能が不明で手つかずの化合物がどれだけあるのかはよくわかっていません。

そのような多数の化合物を研究するには、構造も機能も未知の化合物を「化合物X」としてそのままデータベースに登録するとともに、さまざまなデータベースを広範囲に検索できる仕組みを公開して、誰でもが利用できる研究環境を整えることが重要です。このアプローチは、様々な生物種のゲノム解析や、腸内細菌叢などのメタゲノム解析により、機能未知の遺伝子を含めた多くのDNA配列情報をデータベース化してどこからでも利用できるようにしたことが、現在の生命科学の発展を支えたという事実からも妥当と思われます。

そこで、

食品メタボロームレポジトリ(食レポ)http://metabolites.in/foods 
植物メタボロームレポジトリ(植レポ)http://metabolites.in/plant 
万物メタボロームレポジトリ(ものレポ)http://metabolites.in/things 

を公開し、未知であっても、この食品に含まれるこの化合物は、別の食品のこの化合物と同じか似たものである可能性がある、というような情報を得られるようにしました。

このアプローチによって、ほとんど未知であった化合物の世界が、データベースの大きさがある臨界点を超えたときに一挙に既知となることが期待されます。そうなれば、産業上利用価値の高い化合物を安価な原材料から調達できたり、健康を保つためのバランスのいい食事を日々高い精度でAIが教えてくれる、といったことも実現することでしょう。

研究成果は、科学雑誌『Nucleic Acids Research』のデータベース号(11月24日付)に掲載されます。

詳細はプレスリリースをご覧ください。

論文タイトル: The Thing Metabolome Repository family (XMRs): comparable untargeted metabolome databases for analyzing sample-specific unknown metabolites
著者: Nozomu Sakurai, Shinichi Yamazaki, Kunihiro Suda, Ai Hosoki, Nayumi Akimoto, Haruya Takahashi, Daisuke Shibata and Yuichi Aoki
掲載誌:Nucleic Acids Research (Database Issue)
DOI:10.1093/nar/gkac1058

Facebook
X
SDGs