かいよう病菌に対するトマトの抵抗反応ではサリチル酸が重要な働きを担う

2021/11/17

研究開発

かずさDNA研究所は、トマト生産に大きな経済的損失を与えているかいよう病の病原菌に対するトマトの抵抗反応を分子レベルで網羅的に解析し、植物ホルモンの一種であるサリチル酸が、病原菌への抵抗反応で重要な働きをしていることを見出しました(農研機構、理化学研究所との共同研究)。

 

 トマトかいよう病はグラム陽性細菌Clavibacter michiganensis subsp. michiganensisにより引き起こされる病気です。この細菌は種子に侵入して発芽後に増殖することにより伝染を広げますが、有効な農薬や抵抗性品種がいまだないのが現状で、世界中で多大な経済的損失を与えています。

 動物はウイルス、細菌、カビなどの病気に対抗するために免疫細胞による免疫システムを持つことが知られています。一方、植物にはこのような細胞はありませんが、同じような病原体に侵されるのを防ぐための独自のしくみがあります。例えば植物細胞は多くの細菌に共通する表層物質を認識するための受容体と呼ばれるタンパク質をもっています。
 植物細胞はこの受容体の働きによって細菌の侵入を察知し、その結果として抗菌物質の産生や防壁の構築等に関わる多くの遺伝子の発現が誘導されます。逆に緊急時には不要であるような遺伝子については発現が抑えられます。
 同時に、病原体を感知した細胞は植物ホルモンと呼ばれる化学物質を産生します。植物ホルモンにはまだ病原体に晒されていない部位へ危険信号を伝える役割があり、この信号を受けとった細胞は病原体に備えて抵抗力を増すように遺伝子発現を変化させます。

 このような防御システムは植物や病原体の種類の種類によって使い分けられており、また虫による食害など別の種類のストレスに対しても似ていながら違った種類のシステムがはたらきます。さまざまな抵抗遺伝子群、植物ホルモンなどが知られていますが、農業経済的に重要なトマトかいよう病についてはどのようなシステムが抵抗性に関わっているのかよくわかっていませんでした。

 そこでトマトかいよう病菌をトマトの子葉に感染させ、どのような遺伝子発現の変化が起こるのかを、RNA-Seqという手法で調べました。その結果、病原菌防御に関わる遺伝子群とそれらの発現制御に関わる遺伝子群の発現とともに、植物ホルモンの一種であるサリチル酸の合成に関わる遺伝子の発現が増大していました。
 また、サリチル酸の量を測定すると5倍ほど上昇していることも分かりました。さらに、サリチル酸を予めトマトに作用させると、かいよう病菌に対して抵抗性を示すことが観察されました。このことから、トマトかいよう病に対しては植物ホルモンの中で、サリチル酸が重要な働きをしていることが明らかとなりました。

 農作物で細菌やカビなどが原因で起こる病害の対策は化学農薬によるものがほとんどですが、植物が元々備えている抵抗力を最大限活かせれば、環境負荷を抑えて、持続可能な食糧生産を実現することに近づけます。今後、サリチル酸によって抵抗力を上げる方法の開発を進めて行けば、トマトかいよう病菌の被害を抑えられると期待されます。

論文タイトル:Transcriptome analysis of Clavibacter michiganensis subsp. michiganensis-infected tomatoes: a role of salicylic acid in the host response.
著者:Naoki Yokotani, Yoshinori Hasegawa, Masaru Sato, Hideki Hirakawa, Yusuke Kouzai, Yoko Nishizawa, Eiji Yamamoto, Yoshiki Naito & Sachiko Isobe.
掲載誌:BMC Plant Biology
DOI: 10.1186/s12870-021-03251-8