根粒菌ゲノムの完全解読について

2000/12/21

研究開発

かずさDNA研究所は根粒菌ゲノムの全塩基配列決定を完了した。これは、窒素固定を行う生物として世界初の成果であり、同時にこれまで配列決定されたバクテリアゲノム中最大である。この成果は、DNA Research誌12月号に発表される。

配列を決定した根粒菌は、土壌細菌の一種で、マメ科植物ミヤコグサに共生し窒素固定する能力をもつメソリゾビウム ロティ(MAFF303099株)である。根粒菌のゲノムは、一つの染色体と二つのプラスミド(小型の環状DNA分子)からなり、染色体は7,036,074塩基対、プラスミドは各々351,911塩基対、208,315塩基対(ゲノム総合計:7,596,300塩基対)である。

配列決定は、ゲノム長の約8倍の配列データから全体を構築し(whole genome shot-gun方式)、さらに配列確認反応と長鎖クローンを用いた全体構造の再確認を行っており、決定した塩基配列の精度は極めて高いと考えている。

根粒菌ゲノムの全構造が解明されたことには、以下のような学術上、また農業への応用上の意義がある。

窒素源の供給は、云うまでもなく植物の成長を決定する重要な要因の一つである。植物は自身では大気中の窒素を利用することができないため、窒素源として、外部から供給された窒素肥料または根粒菌との共生(共生窒素固定、マメ科植物に限られる)によって固定された空中窒素のいずれかに依存しているが、多くの農業植物は根粒菌と共生しないため窒素肥料に大きく依存している。しかし、窒素肥料の生産はハーベイ法によるが莫大なエネルギーを必要としている他、土壌環境汚染による環境問題など多くの問題点を抱えているし、農家にとっては窒素肥料の生産コスト、運搬コストなど農業経営上の問題も多い。

根粒菌による共生窒素固定のメカニズムが明らかになり、もし他の植物でも共生窒素固定が可能になれば将来の農業を考える上でそのインパクトは極めて大きい。このため根粒形成、窒素固定のメカニズムの解明や関連遺伝子の単離などに向けて、国内外の多くの研究者が精力的に研究を進めている。この意味からも今回のわれわれの根粒菌ゲノムの全構造解明は、共生窒素固定の解明に大きく貢献するものと考えられる。

一方、土壌中には多種多様な微生物が生息し、それ自体の生態系を構築し物質循環や有用物質生産に貢献していると考えられてきた。また、上述したように、根粒菌などは植物と特に密接な関わりをもっており、農業上重要な役割を果たしている。にもかかわらず、ゲノム解析ではヒト病原菌や古細菌などが先行し、この分野に関係する生物のゲノム解析は皆無に近い状態であった。今回の解析によって農業生産に関りの深い根粒菌のゲノム全構造が明らかにされた結果、一般土壌細菌の遺伝的基盤、土壌中の生態系における役割や生物進化の研究にも多大の貢献することが期待される。

このように根粒菌のゲノム全構造解明によって可能になると思われる共生、窒素固定の各過程に関与する遺伝子の探索と単離、共生窒素固定系の再構築、マメ科以外の植物への共生窒素固定系の付与などを通して、窒素肥料にかわる空中より直接窒素を窒素肥料としての供給法の開発とそれによる窒素肥料使用量の画期的低減という人類の長年の夢への道が大きく開かれたといえる。

かずさDNA研究所では、これまでも高浪前所長のもとラン藻の全ゲノム解析(1996)を完了し、最近はモデル植物シロイヌナズナの全ゲノム解読を完成させるなど植物研究に貢献してきたが、今回、一年足らずの期間で約7.6Mbの根粒菌ゲノムの全構造を世界で初めて完了することが出来た。これは千葉県の全面的な支援と、研究所独自の研究員、技術員の協力体制と努力によるものであり関係者にここに深く感謝したい。今後はこれらの成果を実際に農業に応用し、一方先端研究の集積化を目指すかずさ地区発展の中核として、この地域の学術的、産業的求心力をさらに高めることに貢献したい。

ミヤコグサの根粒 根粒菌 バイテロイド
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