様々な病気に関与するCD4 T細胞群で特徴的な脂質代謝経路を発見

2024/5/24

研究開発

免疫には、異物が侵入してから比較的早く働く「自然免疫」と、応答にやや時間がかかるものの、一度侵入した異物を記憶し、それが再度侵入してきた際に強力に反応する「獲得免疫」があります。CD4 T細胞は、この「獲得免疫」において司令塔のような役割を持っていて、様々な活性化T細胞群(サブセット)へと分化することで、病気に関わっています。本研究では、活性化T細胞サブセットを分化・誘導し、脂肪酸の分解・合成・利用に関する過程(脂肪酸代謝経路)に着目をして、どのような特徴があるかを網羅的に解析しました。

次世代シークエンサーと精密質量分析計によるマルチオミックス解析を行った結果、(1)CD4 T細胞の活性化によって、大半の脂質代謝物の合成が活性化すること、(2)CD4 T細胞サブセットの中でも、自己免疫疾患にかかわるTh17細胞と制御性T細胞ではスフィンゴ脂質(細胞膜の構造や機能、細胞同士の信号伝達、細胞死に重要な役割を果たす脂質)の代謝が高まっていること、(3)スフィンゴ脂質を代謝する過程にある酵素の働きを阻害することによってTh17細胞や制御性T細胞の形成が阻害されることがわかりました。

以上の結果から、スフィンゴ脂質代謝経路に注目することで、T細胞サブセットの中でも、自己免疫疾患にかかわるTh17細胞や制御性T細胞のみを阻害することができると予測されました。将来的には、T細胞を標的としたより副作用の少ない免疫を調整する医薬品の開発に繋がることが期待されます。

研究成果は2024年5月23日に国際学術雑誌Communications Biologyに公開されました。

本研究は(公財)かずさDNA研究所研究補助金、JSPS 科研費(18H04665、#23H04794、#20H03455、 #20K21618、#21K15476、#23K14552)の研究助成を受けたものです。

論文タイトル:The integration of metabolic and proteomic data uncovers an augmentation of the sphingolipid biosynthesis pathway during T-cell differentiation

著者:Toshio Kanno, Ryo Konno, Masaru Sato, Atsushi Kurabayashi, Keisuke Miyako, Takahiro Nakajima, Satoru Yokoyama, Shigemi Sasamoto, Hikari K. Asou, Junichiro Ohzeki, Yoshinori Hasegawa, Kazutaka Ikeda, Yusuke Kawashima, Osamu Ohara and Yusuke Endo

掲載誌:Communication Biology

DOI: doi.org/10.1038/s42003-024-06339-7

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