ヒト人工染色体ベクターを改良し、iPS細胞での新たな遺伝子発現システムとして開発しました

2019/1/8

研究開発

 ヒト人工染色体(HAC)ベクターは、ホストの染色体からは独立して安定に次世代に受け継がれ、数百万塩基対の長さのDNAも搭載可能な、既存のベクターには無い特徴を持ったベクターです。これまでにも各種ヒト培養細胞やマウス個体での多くの研究に利用されてきました。また、ホストとなる細胞の染色体を傷つけること無く外来遺伝子を導入することができるため、ヒトiPS細胞での利用も期待されてきました。しかしながら、HACベクターへ遺伝子を挿入する効率が低く、他のHAC保有細胞からヒトiPS細胞への移入報告が無いことなどから、ヒトiPS細胞での遺伝子挿入実験は行われていませんでした。

 本研究では、かずさDNA研究所の特許技術である、新規部位特異的組換え酵素システムVCre/VloxPとSCre/SloxPを利用しました。VCre/VloxPとSCre/SloxPをそれぞれ遺伝子の下流と上流に配置して同時に組換えを行うことにより、10%の細胞での遺伝子挿入に成功しました。この効率は、既存の方法の100倍から1000倍に相当します。さらにVCre/VloxP、SCre/SloxPシステムを搭載したHACベクターを、ヒトiPS細胞に効率的に導入することにも成功しました。HACベクターの効率的なヒトiPS細胞への導入は、世界で初めての報告となります。

 以上の成果から、HACベクターを利用することにより、これまでは困難であったヒトiPS細胞での効率的な遺伝子挿入実験が可能になると期待されています。

論文の題名:Improving the efficiency of gene insertion in a human artificial chromosome vector and its transfer in human-induced pluripotent stem cells.(ヒト人工染色体ベクターへの遺伝子挿入効率の改善とヒト誘導多能性幹細胞への導入)
雑誌名:Biology Methods and Protocols
論文の公開サイト:https://academic.oup.com/biomethods/article/3/1/bpy013/5267548
かずさDNA研究所、株式会社クロモリサーチ、愛知医科大学との共同研究

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