臨床研究を加速するための簡便なタンパク質の高深度分析システムを確立しました
2019/12/6
研究開発タンパク質は生命活動を支える最も重要な因子であり、タンパク質の量的・質的変動が多くの疾患の原因となっています。そのため、臨床研究においても世界的にタンパク質の包括的な解析(プロテオーム解析)が盛んに行われています。中でも様々な疾患において創薬ターゲットやバイオマーカーとなるキナーゼや転写因子などの微量タンパク質の発現量解析への期待は大きいのですが、分画なしの簡便なプロテオーム解析(1ショットプロテオーム解析)では、一般的に3,000~5,000種類のタンパク質を同定・比較定量できる程度にとどまり、これらの微量タンパク質の動態を確認するには不十分です。この現状を打破するために、できるだけ簡便な分析法でより分析能力の高い(高深度分析)システムの構築が求められていました。
そこで、本研究ではプロテオーム解析システムの要となる液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC/MS)のLC流速やMS取得方法を検討することにより、扱い易く高深度分析が可能な1ショットプロテオーム解析システムの確立に成功しました。このシステムで哺乳類培養細胞を分析すると、90分の分析時間で8,509タンパク質が同定され、1,029種類の転写因子、452種類のキナーゼを同定することができました。さらに本システムを用いて体内および体表に細菌が存在しないマウス(無菌マウス)と細菌が存在するマウス(SPFマウス:特定の病原菌はいない)の大脳のタンパク質を比較し、細菌の有無によって変動する大脳タンパク質を40種類以上特定することができました。
本システムは扱いやすくスループットもよいため、多検体分析が求められる臨床検体の分析にも適しており、疾患関連タンパク質探索、診断マーカー探索や創薬ターゲット探索などへの応用が期待されます。
論文のタイトル:Optimization of Data-Independent Acquisition Mass Spectrometry for Deep and Highly Sensitive Proteomic Analysis
雑誌名:International Journal of Molecular Sciences
著者:Yusuke Kawashima, Eiichiro Watanabe, Taichi Umeyama, Daisuke Nakajima, Masahira Hattori, Kenya Honda and Osamu Ohara
論文のHP:https://www.mdpi.com/1422-0067/20/23/5932#
かずさDNA研究所、理化学研究所、東京大学、慶応大学との共同研究