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バイオ燃料に関する用語解説 -2-

Q&A

バイオ燃料に関するより詳しい解説です。

Q 1 - Q 3 へ
Q 4.  バイオエタノールはどのようにして作るのですか?
 Q 4.a. 植物体の構成成分はどのようなものがあるのでしょう?
 Q 4.b. バイオマスって何ですか?
 Q 4.c. でんぷんからエタノールを作るにはどうするのですか?
 Q 4.d. セルロースからエタノールを作るにはどうするのですか? また、セルロースを利用することはなぜ難しいのですか?
 Q 4.e. セルロースの分解方法開発の現状は?
 Q 4.f. リグニンもバイオ燃料に利用できるのですか?
Q 5. バイオエタノールの製造に適した植物ってどんなものですか?
 Q 5.a.現在使われている植物の特徴は?
 Q 5.b.今後改良すべき点は?
 Q 5.c.改良するにはどのような方法があるのでしょう?
 Q 5.d.エタノール製造過程の改良は?
Q 6. バイオディーゼルの作り方は?
 Q 6.a.バイオディーゼルとは何ですか?
 Q 6.b.バイオエタノールと何が違うのですか?
 Q 6.c.植物体の何がバイオディーゼルの製造に利用できるのでしょう?
 Q 6.d.バイオディーゼルの利点と問題点は?
Q 7 - Q 11 へ

Q 4.a. バイオエタノールはどのようにして作るのですか?

Q 4.a. 植物体の構成成分はどのようなものがあるのでしょう?
A. 植物の細胞壁の主な組成はセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンです。 これらはいずれも光合成によって炭素と水から作られるグルコースから作られます。 グルコース構造式
でんぷん グルコースがα1→4と呼ばれる結合で多数連結したもので、種子や根などに栄養分として蓄えられています。

デンプン構造式
セルロース グルコースがデンプンの場合とは違ってβ1→4と呼ばれる結合で多数連結したもので、水に溶けない安定な構造です。

セルロース構造式
ヘミセルロース セルロース以外の水に不溶性の多糖(単位となる糖が多数連結したもの)でマンナンやキシランなどがあります
リグニン 高分子のフェノール性化合物が三次元の網目構造を形成したもので、高等植物では生育に伴い、導管・仮導管・繊維などの組織で生産されますが、その詳細な過程はまだよくわかっていません。また、今のところ白色腐朽菌 (シイタケなど食用キノコを含む) だけがリグニンを分解することが知られています。

Q 4.b.バイオマスって何ですか?
A. マスとは物質の量のことであり、ある特定の空間に存在する「生物の総量」を物質の量として表現したものをバイオマスと言います。

Q 4.c.でんぷんからエタノールを作るにはどうするのですか?
A. でんぷんは次のように糖化・発酵の過程を経てアルコールになります。
でんぷん→ (糖化) →グルコース→(発酵) →エタノール
(C6H10O5) n C6H12O6C2H5OH
糖化 デンプンの単位であるグルコース間のα1→4と呼ばれる結合を切断してグルコースを作り出すことで、アミラーゼなどの酵素によって行われます。これらの酵素はこうじかびなどの微生物から精製して用いられます。
発酵 正式にはアルコール醗酵と呼ばれ、グルコースなどの糖からアルコールを生成することを指し、酵母などの働きによりおこなわれます。

Q 4.d.セルロースからエタノールを作るにはどうするのですか? また、セルロースを利用することはなぜ難しいのですか?
A. 基本的にはデンプンを分解する過程と似ており、次のような過程でエタノールが作られます。
セルロース→ (糖化) →グルコース → (発酵) →エタノール
(C6H10O5) n C6H12O6C2H5OH
 すでに述べたように、セルロースを分解してグルコースを作り出すためには、単位となるグルコース間のβ1→4と呼ばれる結合を切る酵素 (セルラーゼ) が必要です。 これは糸状菌などの微生物から精製できます。しかしながら、セルロースを含む細胞壁はヘミセルロースやリグニンを含んだ複雑な構造をしており、 セルロースを取り出すのは容易ではありません(次項を参照)。それがデンプンを材料としたエタノール発酵との大きな相違点です。

Q 4.e.セルロースの分解方法開発の現状は?
A. セルロースはバイオマスの大きな部分を占め、かつ食料と競合しないので、今後その利用法の開発は極めて重要になります。
 セルロースの分解 (糖化) 法には生物的、物理的、化学的方法がありますが、現在は多量のセルラーゼなどの酵素を用いた生物的糖化法が主流です。 しかしながら、植物種によって、セルロースの含まれている葉や茎の細胞壁の成分や構造の特性が異なるため、効率的な分解はできていません。
 世界で初めてセルロース系エタノールを実用化したカナダのIogan社では、コムギやトウモロコシを収穫した後の茎や葉、スイッチグラス (イネ科キビ属の雑草) を原料に、 前処理として水蒸気爆砕処理を行ったのち、従来の1/100の酵素量でもセルロースが容易に加水分解できることを見いだしています。
 米国の国立再生可能エネルギー研究所で開発されているプロセスでは、微粉砕したや稲わらやトウモロコシや葉などを原料に用いて、 希硫酸・高温処理という前処理を行い、セルロースを柔らかくしています。
 今後、原材料の構造特性に合ったセルラーゼを選択する方法や、安価で高い活性をもつセルラーゼの開発が急がれます。 土壌中に存在する菌やシロアリの体内に存在する菌などから有用なセルラーゼ生産菌株が発見されており、遺伝子組み換え技術を使って、酵素の生産効率や活性をあげる研究が行われています。 米国では、分子生物学的方法での酵素の研究に重点を置いており、新規の有用微生物のもつ酵素の発見と開発、セルロース代謝経路の詳細の解明、 セルロース代謝制御法の確立などの研究が進められています。
 米国では、セルロース系バイオエタノールの生産コスト目標を2012年に1.33ドル/ガロン (約32円/L;1ドル90円換算)としています。

Q 4.f.リグニンもバイオ燃料に利用できるのですか?
A. リグニンは燃焼時のエネルギー量が大きいので、バイオ燃料製造時の補助燃料として使うにことができます。
 植物の持つ強固な細胞壁はリグニンの接着力によるものですが、同時にそのことはセルロースを取り出す時の障害になっています。 そこで、遺伝子組み換え技術によって細胞壁のリグニン量を減らす植物をつくる研究が行われています。 ただし、リグニンにはいろいろな種類があり、その中には燃やしたときのエネルギー量が大きく、バイオ燃料を製造するときの補助燃料として使えるものもあり、 必ずしもリグニンを少なくした方がいいというわけでもありません。

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Q 5. バイオエタノールの製造に適した植物ってどんなものですか?

Q 5.a.現在使われている植物の特徴は?
A. トウモロコシ、サトウキビ、小麦など、これまでも食用エタノールの生産に用いられていた植物が中心です。

Q 5.b.今後改良すべき点は?
A. 現在のように食用に用いられている植物を原材料にするのではなく、乾燥に強く、肥料が少なくてすみ、栽培の手間がかからない収量の高い植物の選択が必要です。 遺伝子組み換え技術などによるバイオマスの増大化を目指した研究や、糖化に適した細胞壁への改変を目指した研究のほか、 食料生産と競合せず、耕作不適地 (不良環境) に適応し、乾燥、塩害、高温・低温、酸性土壌などに耐性をもつ「エネルギー作物」の開発も必要です。

Q 5.c.改良するにはどのような方法があるのでしょう?
A. エネルギー作物は農産物の場合と違い、味や形状などの品質要件はありませんが、栽培面積および投入エネルギーあたりの乾物収量 (バイオマス) の増大と、低コストで大量生産ができるという点が求められます。 一般に生産量の高い植物は生長が旺盛なため、多量の肥料と水を必要とします。そのため、いかに少ないエネルギーで大きいバイオマスを得るかが今後の技術開発のポイントとなります。
 草本植物の中で注目されているのは、単位面積あたりの生産量が他の植物に比べて高いイネ科の植物です。 米国では、イネ科のスイッチグラスを低エネルギーで栽培するという研究の結果が報告されています。 スイッチグラスを用いて生産されるバイオエタノールは、投入エネルギーの5.4倍のエネルギーを生むと試算されています。 また、エネルギー消費量の多い窒素肥料の量を減らすために、窒素固定能をもつマメ科植物をエネルギー作物として使うことが検討されています。 マメ科植物は根に付着した根粒菌が大気中の窒素を固定することによって窒素化合物を獲得しているため、貧栄養土壌でも生育が可能です。 しかしながら、マメ科植物でも高バイオマス生産を行うためには相当量の窒素肥料が必要であり、窒素固定能を向上させたマメ科植物の開発が望まれます。

Q 5.d.エタノール製造過程の改良は?
A. 次のような点についての改良・開発が必要となります。

1. エタノール生産性の高い酵母などの微生物の改良
2. 高い活性を持つアミラーゼ/セルラーゼの探索
3. アミラーゼ/セルラーゼ活性を持つ酵母などの微生物の改良
4. でんぷんやセルロースの効率のよい分解法の開発
5. グルコース以外の糖からのエタノール生産法の開発

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Q 6.バイオディーゼルの作り方は?

Q 6.a.バイオディーゼルとは何ですか?
A. 菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油などの植物油、魚油や豚脂、牛脂などの獣脂及び廃食用油 (いわゆる天ぷら油等) など、 様々な油脂はバイオディーゼル燃料の原料となります。ただしそのままでは、粘度が高いなどの問題がありますので、化学処理を施す必要があります。

Q 6.b.バイオエタノールと何が違うのですか?
A. バイオエタノールはバイオマスを原料として、酵素反応によって製造する必要がありますが、バイオディーゼルは植物が作り出した油脂をほぼそのまま利用することができます。

Q 6.c.植物体の何がバイオディーゼルの製造に利用できるのでしょう?
A. バイオディーゼルの製造方法にはいくつかありますが、主に原料となる植物油脂からグリセリンなどを取り除いて粘度を下げるなどの化学処理を施して作られています。
 近年、食料と競合しないバイオディーゼル原料として、油脂の生産性が高いナンヨウアブラギリ (ヤトロファ;学名 Jatropha curcas) が注目されています。 この植物は熱帯・亜熱帯に分布する落葉低木であり、成長が早く、植え付けの1年後には収穫が可能になり、一度植えつければ50年間ほど収穫可能です。 また、乾燥に強いため、農耕地に適さない土地でも栽培できます。果実は毒性をもつクルシンを含むため食用とはならず、エネルギー生産専用植物として栽培します。 ただし、単位土地面積あたりの油脂生産量はパームに比べると劣るので、より油の含量が多い優良品種の育種が望まれています。

ナンヨウアブラギリ *バイオディーゼルの原料として注目されているナンヨウアブラギリ
(写真提供:京都大学梅澤俊明教授 )

Q 6.d.バイオディーゼルの利点と問題点は?
A. 利点としては、化学処理の過程以外に新たな装置を作り出す必要がないこと、欠点としては、低温では固まり、原料によって質に差があること、でしょう。

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