かずさ・千葉エリア「平成24年度研究成果報告会」報告

日 時: 平成25年3月4日 (月) 13:30〜18:40
会 場: かずさアカデミアホール201会議室(かずさアカデミアパーク内)
参加者: 講演会  85名
懇談会  33名
 
かすさ・千葉エリア

文部科学省 地域イノベーション戦略支援プログラム(都市エリア型) かずさ・千葉エリア 

平成24年度研究成果報告会

日時: 平成24年3月4日(月)13:30〜18:40

場所: かずさアカデミアホール201会議室

参加者:講演会85名(懇談会:33名)

 

来賓ご挨拶 

         文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 専門官 竹下 勝 氏 

 

 

文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課

専門官 竹下 勝様に、来賓のご挨拶をいただきました。

 

 

 

    

学術講演1:「アレルギーの新たな抑制経路」

        千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学 教授  中山 俊憲 氏 

広義および狭義におけるアレルギーの定義、疫学(全国調査)、喘息や花粉症の病態メカニズム、新たな病因としてPathogenic memory Th2 cellの発見、TGFβのアレルギー抑制のメカニズムと創薬ターゲットとしての可能性、などについてご講演をいただいた。

アレルギー疾患は、乳幼児から成人まで年齢を問わず約30%が罹患する疾患である。しかし、例えば花粉症治療に対する患者の評価は、効果が十分でないなど73.7%が不満(2001年調査)を持っており、更なる発症メカニズムの解明や根治療法の開発等が望まれる。2000年後半からは、免疫反応の司令塔ともいえるヘルパーT細胞のサブセットとして、Th1/Th2細胞の分化に加え、Th17TregなどのSubsetが解明されて来た。サブセット間のバランスが崩れてTh2 細胞優位になった場合に、Th2 細胞はIL-4 IL-5IL-13 といったサイトカインの分泌を介して、IgE 産生や好酸球の遊走・組織浸潤、気道過敏性の亢進を誘発することから、アレルギー疾患が発症すると考えられている。

花粉症は上気道に、喘息は肺の終末気管支に炎症細胞の浸潤が見られる。健常人と異なり花粉症患者においては、Th2クローンサイズに季節変動が認められ、花粉飛散期にクローンサイズが増加し、それに伴ってIL-4産生が増える。IL-5を産生する特殊なpopulation CD62L(lo) CXCR3(lo) )のmemory Th2 cellが見出され、卵白アルブミン誘発マウス喘息モデルにおいて好酸球浸潤を誘導し病気を起こすことが示唆された(Natue Immunol 2011; 12,167Immunity 2011;35, 733)。

 Th2 細胞をTGF-β処理することで誘導される遺伝子としてSox4 を同定した。Sox4 のノックダウンでTGF-βによるTh2 サイトカイン産生の抑制が部分的に解除されたことにより、Th 細胞をTGF-β刺激することで誘導されるSox4 が、TGF-βによるTh2 細胞の分化・機能の抑制に関わっていることを世界で初めて明らかにした。さらに、T 細胞特異的にSox4 を過剰発現したマウスとT 細胞特異的にSox4 を欠損したマウスを使って、卵白アルブミン誘発マウス喘息モデルの発症と病態について検討を行ったところ、気道肺胞洗浄液中への好酸球浸潤や気道過敏性の亢進が、Sox4 の過剰発現マウスでは強く抑制され、逆に欠損マウスでは症状の亢進が見られた。また、Sox4の作用の一部は、Th2 細胞の分化とアレルギー疾患発症を制御する転写因子GATA-3 の機能の抑制を介して発揮されることを見出した。今後、Sox4GATA3 を創薬ターゲットとして研究を発展させることにより、難治性アレルギー疾患の治療法開発につながることが期待される。

 

学術講演2:「ゲノムワイド関連解析によるアレルギー疾患の遺伝要因の解明」

        独立行政法人理化学研究所ゲノム医科学研究センター

呼吸器疾患研究チーム チームリーダー 玉利 真由美 氏

 

ゲノムワイド関連解析とは何か、ゲノムワイド関連解析の利点として効果の予測やターゲットの同定に繋がること、日本人の喘息およびアトピー性皮膚炎患者を用いた大規模なゲノムワイド関連解析により興味深い新規ゲノム領域を見出したこと、喘息のステロイドと長時間作用型気管支拡張剤の併用の有効性がTSLPの抑制効果を介する可能性があること、さらに喘息とアトピー性皮膚炎で共通する領域を見出しアレルギー・マーチの原因究明の可能性について講演いただいた。 遺伝子を構成しているDNAは、1001000base1つ異なる配列を有しているが、集団の1%以上の頻度で違うものを多型と呼ぶ。医療分野では疾患や重症化、薬の効果や副作用などとの関わりが知られている。多型には、SNPInsertion/Deletionvariable number of tandem repeatCopy Number Variation(CNV)などがあるが、SNPの頻度が最も高い。ゲノムワイド関連解析が成功した要因として、ハプロタイプ構造の発見とタイピング手法の進歩が上げられる。ゲノムワイド関連解析は、沢山の解析結果の中から病気との関連を探索するが、偽陽性を減らすため、100万個のSNPを調べ、有意水準α=0.05とした場合、0.05/1,000,000=5 x 10-8をゲノムワイド関連基準としている。全ゲノムにわたり、関連解析を行い、関連の強さがそれを超えたものを有意としている。そのため、1つのグループ(サンプル数が少なくpowerが低い場合)ではこの水準をクリアすることは難しく、それらを補うため国際的なコンソーシアムが結成されている。

 ゲノムワイド関連解析によって同定された治療標的分子の例として、19番染色体のIL-28BSNPが上げられる。C型肝炎の薬物治療(PEG-IFNRibavirineの併用)の効果において、効果が低いタイプのアレルを持つと、末梢血単核球でIL-28Bの発現が低い。最近ではIL-28Bそのものを治療薬とすることも検討されている。演者らは、日本人の成人気管支喘息のゲノムワイド関連解析を行い、5つの疾患関連領域4q31(USP38/GAB1)5q22(TSLP/WDR36)6p21(MHC 領域)10p14(GATA3下流)12q13(IKZF4)を同定した。ウイルス感染擬似物質poly(I:C)を用いたヒト気道上皮細胞の刺激実験により、グルココルチコイドがTSLPの発現を半減させ、さらに長時間作用型β刺激薬の併用がTSLP8割抑えることを示し、ステロイド剤と長時間作用型β刺激薬の併用ターゲットがGWASで同定された領域内に存在することを実証した。さらに演者らは、日本人のアトピー性皮膚炎のゲノムワイド関連解析を行ない、既知の7領域に加え、新規に8つのゲノム領域2q12 (IL1RL1/IL18R1/IL18RAP), 3p21.33 (GLB1), 3q13.2 (CCDC80), 6p21.3 (MHC領域), 7p22 (CARD11),  10q21.2 (ZNF365), 11p15.4 (OR10A3/NLRP10), 20q13 (CYP24A1/PFDN4) を同定した。興味深いことに関連領域には、皮膚バリア機能、慢性炎症、自然獲得免疫、制御性T細胞およびビタミンDの代謝に関わる遺伝子が含まれていた。これまでの国内外のゲノムワイド関連解析の結果を総合すると、気管支喘息(小児気管支喘息中心の集団)とアトピー性皮膚炎と共通の疾患関連領域の存在が明らかとなっている。その領域には、Th2免疫応答に重要なIL-13IL-33受容体であるIL1RL1(ST2)、制御性T細胞で重要な役割を果たすLRRC32(GARP)などの遺伝子が含まれていた。同一個体に年齢を重ねるとともに複数のアレルギー疾患が生じる現象をアレルギー・マーチと呼ぶが、アレルギー・マーチを呈する患者はしばしば重症であることが多い。これらの知見はアレルギー・マーチの原因究明にも役立つものと思われる。

 

 

<研究テーマ紹介>

研究総括:「先端ゲノム解析技術を基礎とした免疫・アレルギー疾患克服のための産学官連携

        クラスター形成」研究成果総括

        研究統括 千葉大学大学院医学研究院長・医学部長 中谷 晴昭


本年度研究成果の総括として、基本計画における数値目標と

本年度の研究開発実績をまとめ、報告された。

製品化は、昨年度までの4品目に加え、本年度目標1件に対し、@抗イヌIgE抗体、AHAC保有C57BL/6マウスの2件を製品化した。

試作品は、本年度目標5件に対し、@抗体内蔵の診断用血漿・血球分離チップ、A磁性粒子を用いた診断チップ、B抗体アレイ計測装置、Cイヌ、ネコ用アレルギー診断用標品、D尋常性乾癬モデルマウス、EヒトHLA-DRAHACを用いて導入した免疫不全症Tgマウス、の6件を試作した。

 特許出願は、本年度目標8件に対し、@母乳中IL−27産生増強のためのフラクトオリゴ糖の使用、ATヘルパー17細胞分化の制御剤、B尋常性乾癬モデルマウス及びその製造方法、C簡易測定器具、D抗イヌIgEモノクロナール抗体並びに抗イヌIgEモノクロナール抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、Eラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体、及びこれをコードする核酸分子、及びその利用、F血球分離チップ、G三次元培養表皮、を予定している。

 

テーマ1:「免疫・アレルギー疾患克服のための先端ゲノム解析基盤整備とその実用化研究」

     (公財)かずさDNA研究所 副所長・ヒトゲノム研究部長 小原 收

 

免疫・アレルギー疾患の診断のためのマイクロデバイスシステムをつくること、及びかずさ地区の臨床的遺伝子解析拠点化に向けた取組み状況について報告された。

サブテーマ1では、千葉大学関教授の水力学的ろ過システム技術、東芝機械鰍フ射出成形技術、早稲田大学のマイクロ流路作

製技術及び、東洋合成工業鰍フ水溶性光感応性樹脂を用いて、産学官連携下に種々の検討を重ね、十分な血球分離能を有する完全合成樹脂製血球分離チップを完成させた。さらに処理血液量を増やすため、積層化の試みも進めている。血漿血球分離だけでなくイムノアッセイも同一チップ中で実施できる高感度のマイクロデバイス系を新たにデザインし、その試作を行い分離能力の検討を行った。また、コスト面での改善が強く求められるポイントオブケア検査のために、新規な磁性粒子含有診断チップを考案し、その実証のためへマットクリット管内で廃液を生じない抗原抗体反応検出系を試作し、それが従来法と同じ感度で用いることができることを確認した。ヒト抗体に先立ち、動物のアレルギー検査用に組換え抗体生産のパイプラインを構築し、抗イヌIgE組換え抗体の試作を完成させた。蛍光法による計測装置の試作に加え、安価で簡易型の抗体アレイの測定装置の開発についても、地元企業と共同開発を進めている。マイクロデバイスシステムは、将来的にテーマ2で見出したバイオマーカーの測定・診断に応用するが、血漿血球分離チップ、磁性粒子含有診断チップ、高感度抗体アレイ、計測装置の作製等に一定の目処が立ったことより、マイクロデバイスシステムの実現に大きく近づいた。

サブテーマ2では、かずさ地区に免疫・アレルギー疾患の遺伝子診断を持続的に継続していく仕組みを確立するのが目的である。複数の遺伝子免疫疾患について探索型の疾患遺伝子変異の同定を進める中で、次世代シーケンサーを使うことにより、安価で迅速に確定診断できる方法論を完成し論文に報告した(CINCAと呼ばれる自己炎症性疾患)。ここで開発されたアプローチを疾患原因の確定検査に応用する動きを加速し、一連の研究から生まれた情報解析方法と検体前処理技術が広く普及するための企業との連携関係の構築にも取り組み始めた。これらの取り組みにより、かずさ地区が社会的に置き去りにされてきた希少疾患の確定診断のための遺伝子検査拠点として成立するための基盤が構築できたと考えている。

 

テーマ2:「母体・乳幼児へのプレバイオティクス/プロバイオティクス投与によるアレルギー発症予防

         及び治療効果に関連するバイオマーカーの探索」

            千葉大学大学院医学研究院 小児病態学 准教授 下条 直樹

アレルギー疾患は、遺伝素因(バリア機能異常、Th2型免疫反応)および環境因子(微生物暴露、母乳免疫活性物質、アレルゲン暴露、外界の物理化学的な環境)によって発症する。乳幼児期のアトピー性皮膚炎は、年齢を重ねるとともに食物アレルギー→鼻炎→喘息へと複数のアレルギー疾患が生じるアレルギー・マーチへと進展する可能性がある。腸管免疫系の発達における腸内細菌叢の重要性は動物実験やヒトでの臨床研究から明らかにされている。一方、離乳食が開始されるまで児が摂取する母乳が腸管免疫系に与える影響はまだまだ不明なことが多い。従来からアレルギー性疾患の発症予防の点から母乳栄養が推奨されてきたが近年の疫学研究の結果は母乳栄養が人工栄養よりもアレルギー疾患の発症を抑制せず、むしろ促進する場合が多く、母乳中にはアレルギーの発症を促進する物質が含まれていることを示唆している。演者らは、これまでの出生コホート研究において、母乳中免疫活性物質とアトピー性皮膚炎の関連を検討し、初乳および生後1ヶ月母乳中のケモカイン/サイトカインを測定することにより、アトピー性皮膚炎の発症を高い確率で予測する方法を見出した。今回、妊娠中および授乳中の母体のフラクトオリゴ糖(FOS)摂取により母乳中細胞が発現する遺伝子をマイクロアレイ解析により包括的に解析した結果、対照群とFOS摂取群の間で複数の分子について初乳および1か月母乳細胞の遺伝子発現に統計学に有意な発現の差異があることが判明した。そのうちで、免疫活性物質として、初乳と1か月母乳中のIL-27濃度が対照群と比較して、FOS群で有意に高かった。IL-27は免疫調節性サイトカインとして腸管炎症の抑制に関与することが明らかとされている。今後、動物実験等で経口的なIL-27の投与が腸管免疫系の発達に与える影響についての検討が必要と考える。

さらに、乳幼児食物アレルギー患者に対する経口減感作療法におけるシンバイオティクス(ビフィズス菌+フラクトオリゴ糖)の効果についての研究を開始していることも紹介された。

 

 

テーマ2:「頭頸部癌に対するiNKT細胞関連免疫療法のこれまでの歩みと今後の展望」

         千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 國井 直樹

癌の免疫細胞療法の概要が説明され、その中でInvariant natural killer T (iNKT) 細胞を用いた免疫細胞療法の有用性が説明された。

千葉大学では2001年から肺癌患者を対象としてαGalCerパルス樹状細胞を用いた臨床研究を行い、その安全性とiNKT細胞に特異的な免疫反応の全身での誘導、さらに一定の臨床効果が期待されることを明らかにしている。演者らは、頭頸部癌患者において末梢血iNKT細胞頻度の低下がみられないこと、放射線治療によりT細胞は著明に低下するのに対して、iNKT細胞では有意な減少を認めないことを見出した。また、静注した樹状細胞が主に肺でトラップされるのに対し、鼻粘膜下に投与すると、早期に頸部リンパ節に遊走していくことが分かった。これらの基礎・臨床研究のデータから、頭頸部癌治療におけるiNKT細胞関連免疫療法の有用性が期待されたため、2004年から2008年の5年間にわたって「NKT細胞免疫系を標的にした頭頸部癌の免疫細胞治療の開発に関する研究」が行われた。 現在までに、1)αGalCerパルス樹状細胞の鼻粘膜投与に関する第T相試験、2)αGalCerパルス樹状細胞の静脈内投与に関する第T相試験、3)αGalCerパルス樹状細胞の鼻粘膜投与と活性化iNKT細胞の腫瘍栄養動脈への選択的動注を併用した第T相試験を行い、さらに4)αGalCerパルス樹状細胞の鼻粘膜投与と活性化iNKT細胞の選択的動注を根治手術前に行う第U相試験も終了した。1)の第T相試験では、標準治療後の局所再発手術不能頭頸部癌患者9症例を対象にαGalCer DCの鼻粘膜下投与を行い、9症例中8症例で血中のiNKT細胞特異的免疫活性の上昇を認めた。このことより、静脈投与する場合の10分の1の細胞数で静脈投与と同等の免疫応答が得られることが明らかになった。また、3)の試験は標準治療後の局所再発手術不能症例8例を対象に行われ、αGalCerパルス樹状細胞の鼻粘膜下投与に加え、活性化iNKT細胞の選択的動注を組み合わせることにより、8例中3症例で有意な腫瘍縮小効果、7症例で腫瘍の増大抑制効果が確認された。さらに、4)の第U相試験ではサルベージ手術前の再発頭頸部癌患者10例を対象にαGalCerパルス樹状細胞の鼻粘膜下投与と活性化iNKT細胞の選択的動注を行い、10例中5症例で有意な腫瘍縮小を認め、特に腫瘍縮小を認めた5例では細胞投与後の根治手術で得られた標本から有意な腫瘍内iNKT細胞浸潤の増加が確認された。また、これら全ての臨床研究を通じてGrade Vを超える重篤な有害事象は確認されなかった。

これらの臨床研究での成果を社会に還元するべく、まず、肺癌に対するαGalCerパルス樹状細胞の静注療法が2012年に高度医療に承認され、現在進行中である。次いで、本年214日に頭頸部扁平上皮癌術後症例に対するαGalCerパルス樹状細胞の鼻粘膜下投与も先進医療として認可され、近日中に開始予定である。また、これらの臨床研究を通じて効果予測に関する有用なバイオマーカーの探索も続けている。

 

テーマ3:「次世代ヒト疾患モデルマウス作製のための技術開発とその利用」

         (独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 

       免疫器官形成研究グループ ディレクター 古関 明彦

 

免疫不全マウスの開発によりヒト化マウスの研究が進められるようになったこと、ヒト人工染色体HACを用いたヒト遺伝子導入免疫不全マウスの作製とその課題対応、従来法により作製された「ヒト化マウス」の機能試験結果が報告された。NOD-SCIDマウスの開発により獲得免疫が欠如し、Commonγ欠損により自然免疫を抑えることが可能になり、ヒト化マウスの研究が進められるようになった。この免疫不全マウス(NOD/SCID/IL2rgnull)にヒト遺伝子を導入して体内環境をよりヒトに近づけた第三世代ヒト化マウスの作製を続けている。そのために重要な遺伝子として、サイトカイン、造血因子、接着分子など様々のものが考えられるが、ヒト疾患モデルとの関連で言えば、ヒト組織適合性抗原(HLA)の発現はヒト化マウスの体内環境のヒト化に極めて重要である。今回の講演では、従来法による遺伝子導入で作製されたClassTのHLA導入マウスの紹介とともに、ヒト人工染色体HAC技術を用いたClassUのヒトHLA遺伝子導入について報告があった。ヒト遺伝子を導入して作製された第三世代免疫不全マウスを用いての疾患再現モデルや造血・免疫系の再現についての研究として、ヒトサイトカイン遺伝子Xを導入した第三世代免疫不全マウスによる乾癬モデルマウス、ヒト膜結合型Stem Cell Factor遺伝子のトランスジェニックヒト化マウス1の性状等について紹介された。これらは、新規な疾患モデルあるいは次世代ヒト化マウスとして、大変有用と思われ、企業とその実証を進めたいと考えている。

本プロジェクトもラストスパートの時期に入った。今後、それらの第三世代免疫不全マウスがどこまでヒト環境をマウス内に再現し、それによってどこまでヒト疾患を再現した疾患モデルとなりうるかが興味の焦点である。理化学研究所横浜研究所は、来年度から独立行政法人としての第三期を迎え、免疫・アレルギー科学総合研究センターも統合生命医科学センターとして生まれ変わる。そこではヒト疾患研究が主要課題となり、こうした新しい技術によって生み出された新たなヒト疾患解析・創薬基盤の活用により、我が国のライフイノベーションの実現に少しでも近づけることが大きなミッションである。本プロジェクトで開発された次世代疾患モデルマウスが、この目的達成のためにも大きな貢献をするツールとなることを目指している。

 

                                       以上