かずさ・千葉エリア「平成21年度産学官連携交流会」報告

日 時: 平成21年11月19日 (木) 13:00〜18:30
会 場: かずさアカデミアホール202B
 
13:00-13:05 主催者ご挨拶
(財) かずさディー・エヌ・エー研究所  専務理事 篠崎 勝義
13:05-13:30 施策紹介 「地域科学技術の振興について」
 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付 (地域科学技術担当)
 戦略官補佐 渡邊 陽平 様
 日本における地域科学技術振興の背景と必要性が示された。
  新たな「知」を創造する大学の研究成果が社会還元を通じて地域経済および雇用の活性化を促すことが期待されるにもかかわらず、都道府県等の科学技術関連予算は減少の一途をたどっている。このような現状を打開するため、文部科学省は科学技術基本計画を立て、知的クラスター創成事業と都市エリア産学官連携促進事業の2事業により、地域の大学等を核とする産学官ネットワーク形成により持続的なイノベーションを生み出すクラスターの創成を目指してきた。
 平成18年からは第3期のクラスター政策の発展期に入ったこと、これまでに得られた成果、関係者の評価、成功に導くためのポイント等について紹介された。
13:30-14:15 学術講演1「衛生仮説とアレルギー疾患」
 国立成育医療センター研究所  免疫アレルギー研究部部長 斎藤 博久 様
 「乳幼児期までの感染・非衛生的環境が、その後のアレルギー疾患の発症を低下させる」という衛生仮設は、細菌菌体成分 (エンドトキシン) がTLRを介した樹状細胞刺激の結果遊離されるサイトカインIL-12により、ナイーヴT細胞からアレルゲン特異的1型ヘルパー(Th1)あるいは17型ヘルパー(Th17)T細胞への分化が刺激されるためと説明できる。また衛生的な環境下では、Th1やTh17細胞発達を刺激する細菌ウイルス成分のみならず、Th2や制御性T細胞の発達を刺激する寄生虫や植物成分の減少により、以前は問題にならなかったわずかな抗原による刺激により、Th1、Th2、Th17、制御性T細胞4つのT細胞の免疫バランスが容易にくずれ自己免疫疾患やアレルギー疾患を発症しやすい体質になっていることを示唆した。実際、重症慢性アレルギー疾患患者と同年齢で同等の高IgE血症、高好酸球数を有するアレルギー体質保有健康人の免疫バランスを比較すると、前者において制御性T細胞数が全般的に著しく低下している (J Allergy Clin Immunol 2007; 120:960) 。
 乳児期より発症するアトピー性皮膚炎や食物アレルギーでは、衛生仮説は成立しない。喘息気道上皮やアトピー性皮膚炎上皮では、炎症部位にTSLP(Thymic stromal Lymphopoietin)の特異的発現が認められ、TSLPによる樹状細胞活性化がIL-5やIL-13産生を刺激し、TNFαに富むTh2細胞やTh17細胞を増やすことが考えられる(WAO Journal 2008;9-14)。また、角質層内の基質蛋白質であるFilaggrinは、水分を閉じ込めて皮膚の乾燥を防ぎ、バクテリアやウイルス感染を防いでいるが、アトピー性皮膚炎で減少が認められており、Filaggrinの機能低下が病因になる可能性が示唆される。
14:15-15:00 学術講演2 「アレルギー体質を決める遺伝子について」
  東京理科大学生命科学研究所 生命工学技術研究部門 教授
   (独) 理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 
  シグナルネットワーク研究チーム  リーダー 久保 允人 様
 Th1反応が誘導されやすいためアレルギーに成りにくいB10マウスと、Th2細胞が誘導されやすくアレルギーを起こしやすいBALBマウスという2種の異なる遺伝的背景を持ったマウスを使って遺伝的連鎖解析を行うことにより、Mina53という転写因子の発現レベルの違いがアレルギー体質を規定していることを発見した。Mina53は、465AAの核内蛋白であり、遺伝子mina53はMycの標的遺伝子である。Mina遺伝子の導入によって、Minaの発現を増加させたマウスでは、T細胞でIL-4産生が低下したのに対し、RNA干渉でMinaの発現を減少させたマウスでは、IL-4産生が増加したことより、Mina蛋白にはアレルギー病態を規定するサイトカインIL-4の産生を抑制的に制御する働きがあることがわかった。
 さらに、MinaのIL-4 promotor結合部位も明らかにされた。また、Mina遺伝子には複数の遺伝子多型 (SNP) が存在していて、このSNPがアレルギーになりやすさ・なりにくさと深く関与していることも分かってきた。マウスと同様、ヒトにおいてもMina遺伝子の多型が認められ、アレルギー疾患 (喘息) との相関が示されつつある。
15:20-15:50 かずさ・千葉エリア事業概要の説明:全体像
  (財) かずさディー・エヌ・エー研究所  副所長兼ヒトゲノム 研究部長 小原 收
 千葉大学および理研免疫・アレルギー科学総合研究センター協力のもと、かずさ・千葉エリアに免疫・アレルギー疾患克服のための橋渡し研究拠点を実現しようとするプロジェクト「先端ゲノム解析技術を基礎とした免疫アレルギー疾患克服のための産学官連携クラスター形成」の全体像を紹介した。
 テーマ1では、免疫・アレルギー疾患克服のための先端ゲノム解析基盤整備とその実用化研究として、閉鎖系での血球分析や微量検体の血漿分析を可能に するディスポーザル・チップや小型セルソーターについて研究開発状況を発表した。
 テーマ2では、免疫関連難治疾患の治療効果判定・予後予測のためのバイオマーカーの探索開発研究として、スギ花粉症のほか、リウマチ、プレバイオティクスの新生児アレルギー疾患予防やアトピー性皮膚炎、薬疹、癌の免疫細胞療法について紹介された。
 テーマ3では、次世代ヒト疾患モデルマウス作製のための技術開発とその利用として、第二世代免疫系ヒト化マウスの有用性と、クロモリサーチ社の有するボトムアップ法による人工染色体技術を応用した第三世代免疫系ヒト化マウスへの期待が紹介された。
15:50-16:15 「オープンソース型次世代シーケンサー」
   (財) かずさディー・エヌ・エー研究所  副所長兼ヒトゲノム 研究部長 小原 收
 第三世代の次世代シーケンサーと総称される、大量の塩基配列を高速に読み取る装置が出現し、$1000でヒトゲノムを読み取ることが可能になりつつある。しかし、こうした高速シーケンシングが驚異的なスピードで更なる技術的な進歩を遂げていく中で、我が国のこうした分野での計測装置開発が大きく欧米に後れをとってしまい、現状は遺伝病検査やパーソナル・ゲノム・シーケンスの特許を欧米に奪われてしまっているといえる。
 ポスト・パーソナル・シーケンシングに失地回復を図る現実的な取組みとして、欧米の技術を基に各社が持っているノウハウをオープンにし、ソフトウェアやプロトコールを最適化し、性能を向上させる相互協力のコミュニティー構想を提案した。単に現実的な大量シーケンシングのニーズに応えるだけでなく、将来のバイオ産業の発展を支える技術基盤構築にオープンソース型の選択肢を持ち込むことの意義と将来展望について述べた上で、広くその可能性について議論することができる場を構築する必要性を示した。
16:15-16:45 「スギ花粉症の舌下免疫療法とその効果を予測するバイオマーカー探索」
  千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頚部腫瘍学  教授 岡本 美孝 様
 スギ花粉症は、昨年度の全国調査で罹患率が26.5%と高く、かつ増加傾向にあり、就業や学業への影響、睡眠障害など患者のQOL障害が強いこと、高額な医療費、さらには自然改善が少ないといったことが明らかにされており、根治療法の開発が望まれている。しかし、薬物治療の改善率は低く、根本治療の可能性を有している抗原特異的免疫療法(減感作療法)は、抗原エキスの頻回皮下注射が必要で患者への負担が大きい。千葉大学では2004年以降、スギ花粉症患者を対象に、舌下免疫療法の安全性を確認するオープン試験に始り、その後プラセボを対象にしたいくつかのランダム化臨床比較試験を行ってきた。
 今回、抗原エキスの量を増やし、食品として使用されており、かつ動物実験で高い有効性が確認された乳酸菌の口内投与によるアジュバント効果の有無を明らかにすることを加えて、舌下免疫療法の有効性を評価する二重盲検比較試験を100例の患者を用いて行った。その結果、抗原エキスの舌下免疫療法は、有意な症状改善を示し、乳酸菌アジュバントは、QOLスコアの改善を示した。本試験で得られた末梢血単核球を用いて、遺伝子発現解析を行い、治療効果予測因子も含めた様々なバイオマーカーの検索を開始している。
16:45-17:15 「ヒト化動物モデル」
   (独) 理化学研究所  免疫・アレルギー科学総合研究センター 
  ヒト疾患モデル研究ユニット  チームリーダー 石川 文彦 様
 マウスの体の中に、ヒトの造血・免疫系を再現する「免疫系ヒト化マウス」の作製の経緯について発表された。免疫系ヒト化マウスを用いることで、ヒトの免疫システムの精緻なメカニズムを理解することが可能になり、血液のがんと言われる「白血病」や免疫機能が生まれながらに弱い「原発性免疫不全症」など、ヒトの病気をマウスの体内で再現することに成功した。ヒトの病気をマウスに再現することで、これらの病気をより正確に理解し、治療薬の標的探索、臨床効果予測、ヒトにおける安全性予測など、現在の医薬品開発を著しく改善する可能性が示唆された。
 免疫系ヒト化マウスは、@ウイルス感染症 (HIV, HTLV1,EBV) 、A抗体医薬・サイトカイン、B再生医療・細胞治療法の検証 (iPSの検証) 、Cヒト疾患の理解と治療薬開発、の可能性など大きな期待が持たれる。
17:15-17:20 コーディネーター活動 産官学連携のしくみ
  (財) かずさディー・エヌ・エー研究所 都市エリア事業推進チーム
  科学技術コーディネーター山崎 雅司