ゲノム編集コムギの作製コムギの穂(左)から種子を取り出し、その未熟胚にゲノム編集用の遺伝子を導入して培養する(中)。再分化した植物(右)の遺伝子配列を確認しゲノム編集コムギを取得する。撮影協力:農研機構 安倍史高上級研究員80チーム長遠藤 裕介●トランスレーショナル臨床オミックス研究チーム 遺伝子組換え作物やゲノム編集技術は、品種改良の非常に有効な手段です。除草剤耐性は雑草を除くため研究グループ紹介の耕起に使用する燃料だけでなく、土壌からの栄養分の流出も減らします。また、病虫害に強い形質は農薬の使用量を減らし、農薬を使う余裕の無い地域での食料確保を助けます。このような理由から、世界全体では遺伝子組換え作物の利用は進んでいます。他生物由来のDNAを持たないゲノム編集作物は、遺伝子組換え作物よりもさらに普及すると期待されています。私たちは様々な形質を改良した作物を作出し、試験栽培を経て優れた系統を見出し、農業の持続可能性を上げる品種の育成につなげることを目指しています。3.将来展望 現在の主要品種は、化学肥料を大量に使う栽培方法に適した優良系統の間で交配が繰り返されて育成されており、遺伝的多様性が減少しています。今後は、低肥料での栽培や気候変動に伴う様々なストレスへの耐性という観点での品種改良が必要ですが、それには古い在来系統や栽培化される前の野生種といった遺伝資源の中から適した形質を持つ系統を探し、利用する必要があります。遺伝資源の優れた性質を保ちながら、生産性、品質を兼ね備えた系統を従来法で作出するのは非常に労力と時間がかかりますが、ゲノム編集で必要なゲノム領域を改変できれば、この過程を大幅に加速できると期待されます。そのために、ゲノム編集の技術向上を進めて遺伝資源の活用を加速させ、これからの農業に必要な形質を持つ作物の開発に結び付けたいと考えています。1.ミッションと主要テーマ オミックス技術の進展により、ろ紙血などの微量検体からDNAやRNAに加えてタンパク質や代謝物についての情報も、大規模かつ高精度に測定することが可能になり、今まさにマルチオミックスの観点から臨床サンプルを取り扱える時代になりました。こうしたかずさDNA研究所が有する最先端の分析基盤を、千葉大学医学部との共同臨床研究体制へと連結し、次世代型の臨床研究システムを構築します。私たちはこれまでも免疫・アレルギーの基礎研究で連携活動を展開してきましたが、特に、小児アレルギー疾患の治療を目指した未来志向のトランスレーショナルリサーチを目指します。ポストゲノム解析や細菌叢(そう)メタゲノム解析を最大限に活用して、発病から治療、もしくは慢性化への移行における表現型について、「必ずしもゲノムに依らない病気の実態を再定義」することを目指した、次世代型のアレルギーコホート研究を進めます。2.最近のトピックスや成果 アレルギーマーチ(アレルギーになりやすい子どもが成長とともに、様々なアレルギー疾患に順番にかかっていくこと)の予防を目的として、出生前から中学生までの期間にわたって継続してフォローしていく、前向き出生コホート研究を行っています。長期間のフォローによってアレルギーマーチの経過を観察す
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