30周年記念デジタルブック
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チーム長櫻井 望1.ミッションと主要なテーマ油脂高生産微細藻類ナンノクロロプシスNannochloropsis oceanica NIES-214578●藻類代謝エンジニアリングチーム 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、光合成により二酸化炭素を有機化合物に変換できる植物や藻類などの活用が期待されています。中でも、細胞が1個〜数個からなる微細藻類(植物プランクトン)は、油脂を多量に蓄積する種も多く、近年特に注目を集めています。藻類代謝エンジニアリングチームでは、微細藻類における物質の生合成や分解、輸送など、すなわち「代謝」を巧みに制御(エンジニアリング)して、効率よく目的の有機物質を大量生産するための技術開発を進めています。かずさDNA研究所が培ってきた遺伝子や代謝物質の大規模解析の基礎技術を活用し、二酸化炭素の回収と有用物質生産の両立を目指します。2.最近のトピックスや成果 当チームでは主に、油脂を高蓄積するナンノクロロプシス(Nannochloropsis)という微細藻類を用いて研究を進めています。ナンノクロロプシスは直径3μmほどの単細胞の微細藻類で、細胞内に油脂を最大で乾燥重量あたり50〜60%も蓄積できます。貯蔵型の油脂としてトリアシルグリセロール(TAG)だけでなく、健康効果でも注目されるオメガ3脂肪酸のひとつエイコサペンタエン酸(EPA)も高蓄積します。また、全遺伝子を含むゲノム配列が解読されていることや、安定した遺伝子改変方法が確立されていることなど、代謝エンジニアリングをするに当たって多くの利点を持ちます。さらに、海洋性であるため、培養に陸水資源を必要とせず、実用化に向けても有利な特徴があります。 当チームでは、まず、どの遺伝子をどう改変するのが良いかを考える土台として、ナンノクロロプシスの代謝マップの解明を目指しています。代謝マップとは、細胞内の物質がどういう経路で代謝されてゆくかを表した図のことです。詳細な代謝マップを作成するために、未知の化合物を含めた数千〜数万の代謝物質を、一斉に検出する解析手法を活用しています。検出される膨大な代謝物質のうち、特に重要なものを見極めるためには、他の藻類や、藻類とは遠縁の植物サンプルなどと比較することが有効です。私たちは、様々なサンプルから同一の解析手法で得たデータをデータベースとして整備し一般公開しています(万物メタボロームレポジトリ)。このデータベースと比較すると、ナンノクロロプシスには、例えば他の藻類と共通し植物には存在しない、未知の代謝物質が蓄積している可能性などが分かってきました。これら物質の推定や特定を行いながら、代謝マップの解明を進めています。代謝物質からのアプローチだけでなく、遺伝子機能の解明も同時に進めています。油脂の蓄積を制御する遺伝子には未解明のものもあり、そのような遺伝子の探索を進めています。また、実用化には培養環境の最適化も重要な研究グループ紹介

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