75研究室長遠藤 裕介② 免疫応答における代謝システムの重要性解明:①により、アレルギー、感染症、自己免疫疾患に深く関与する代謝経路をそれぞれ同定しました。これらの多くはNature, Cell, Scienceをはじめとしたトップジャーナルに報告しています。2021〜2022年には、千葉大学、東京慈恵会医科大学らと共同で、脂質代謝を標的にすることで、抗ウイルス応答を高めると同時にウイルス自体の感染力を抑えるという、一石二鳥ともいえる効果を発見しました。また2023年には、東京大学、千葉大学と共同で、5種類の脂質代謝酵素が自己免疫疾患を誘導するTh17細胞を増加させること、脂質の一種LPE [1-18:1] も同様にTh17細胞を増加させること、さらに、LPE [1-18:1]はTh17細胞で遺伝子の発現を制御する主要なタンパク質と複合体を作ることによりTh17細胞の増加に関わっている可能性があること、などを明らかにしました。この結果は、自己免疫性炎症疾患の診断マーカーや治療法の開発、さらには脂質代謝経路をターゲットとしたメタボリックシンドローム克服のための創薬にも貢献すると期待されます。③ 免疫マルチオミックスの社会実装への挑戦:上述の代謝酵素や代謝物を標的として、臨床応用の可能性についての評価を進めています。特にアレルギー疾患、感染症およびメタボリックシンドロームについて、千葉大医学部や慶應大医学部などと共に、従来とは異なる新たな視点からの臨床研究を進めています。これらに加えて、基礎から臨床への超スピード化を促進するための免疫エピゲノム編集システムの開発を進めています。これは、DNAを切らずに制御する安全性の高い方法であることから、多くの注目を集め、現在社会実装に向けて準備を進めています。1.ミッションと主要テーマ オミックス医科学研究室は、かずさ DNA 研究所のヒトゲノム研究を医療に活用していくため、様々な先端計測による「オミックス」解析と医学研究を統合した新しい研究領域を切り拓いていきます。特に、現在でもなお根治療法の存在しないアレルギー疾患や、感染症をはじめとする様々な疾患の発症機構の研究を、的確な診断や新たな治療方法の開発に結びつけることを目指しています。こうした分野横断的な研究のため2016年から開始した千葉大学との連携研究を拡大・強化し、高いレベルの医科学研究と最先端の「オミックス」計測技術を融合するというアプローチをとっています。この戦略を免疫疾患へと応用し、従来の手法では見つけることができなかったバイオマーカー(疾患の有無や病状の変化、治療の効果の指標となる生体内の物質)の同定など創薬や治療法の開発に必要不可欠な情報を提供します。これらの取り組みにより、「千葉発」のオミックス医療を実現します。また、オミックス計測技術を最大限に活用することにより、代謝と免疫との融合研究を独自に進めて、生命が有する新たな原理の解明に挑戦します。2.最近のトピックスや成果 3つのテーマを軸に日々研究を進めています。① オミックス解析基盤技術の構築:免疫細胞が分化する過程で働く多種多様なメッセンジャーRNA(mRNA)やタンパク質を同時に評価するためのデータ基盤(免疫プロテオゲノミクス基盤)を構築しました。これらのオミックス情報に、現在では代謝情報を追加し、マルチオミックスシステムとして免疫研究への応用展開を進めています。3.将来展望 これまでの研究成果により、代謝を標的とすることで、これまで有効な治療法が見つかっていない自己免疫疾患、難治性アレルギー疾患、新興感染症に対して革新的な治療法の開発ができることがわかってきましオミックス医科学研究室
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