69グループ長池田 和貴1.ミッションと主要なテーマ DNAにはタンパク質を作る設計図が書かれており、さらにタンパク質を材料に作られた酵素から、脂質や糖などの多種多様な代謝物が産生されます。それぞれの生物は、自らの生体内で代謝分子を作るだけでなく、食物や共生微生物などを介して周りの環境から代謝分子を取り込んで、生命活動の維持や健康の増進を行っています。 生体分子解析グループは、様々な生命現象を分子レベルで解き明かす上で欠かせない代謝オミクス(メタボロミクス、リピドミクス)研究をメインテーマとしてきました。現在私たちは、動植物や微生物など様々な生物種の代謝物を網羅的、高深度に探索するために、「質量分析計(MS)」を用いた高感度な分析法と「液体クロマトグラフフィー(LC)」・「ガスクロマトグラフィー(GC)」などの高度分離法を組み合わせて、新技術の開発を図っています。また、これらの技術をヘルスケア・医療・農業・食品などの様々な分野に応用して、生体内外の重要な代謝変化を高精度、高感度に捉えたり、病気や健康に関わる未知の分子や代謝経路の発見に取り組んでいます。さらに、これらの技術を受託サービスとして広く普及させることで、さらなる社会貢献を目指しています。2.最近のトピックスや成果 最近の代謝オミクス研究は、ハード面の進歩によるデータの膨大化への対処や他のオミクスデータとの統合に向けて、得られたデータをいかに高精度かつ効率的に定性・定量解析できるかが重要となってきています。このため、インフォマティクス技術の依存度が増大しており、当グループでは同定スクリーニングなどの解析技術を向上させるプログラムや、重要な代謝変化や分子を探索するプログラム等の独自開発にも、たゆまぬ分離分析技術の向上とともに取り組んでいます。 これらの研究成果は、現在受託サービスとして応用展開しており、幅広い生物種のサンプルについて、産学官の研究機関などから多数の解析依頼を受けています。また、所内の他グループとの研究連携や他機関との共同研究を積極的に進め、これらの成果が国際的に評価の高い科学論文やその姉妹誌などに数多く掲載されています。 研究成果の社会実装にも精力的に取り組み、京都大学との共同研究では、大豆由来のメンタルサポート成分として新たな機能性ペプチドを発見し、UHA味覚糖から「冴えるダイズ」として2020年12月に発売されています。 アデランスとの共同研究では、毛髪中に含まれる生体分子を解析することで、罹患率の高い一部の疾患が判別できるようになってきています。これによって、従来は医療施設での血液検査でしか発見できなかった疾患が、ヘアサロンといった日常的な場所での健康チェックによって発見できるという可能性が見えてきています。 また、島津製作所と九州大学との共同研究としてIBSプロジェクト※1が2023年3月よりスタートし、代謝オミクスの次世代装置の開発拠点として、島津製作所のKYOLABS内にABiSラボ※2を開設しました。このプロジェクトは、2020年度に当グループで取り纏めたCOCN(産業競争力懇談会)での構想の実現を目指すもので、世界初の代謝オミクス解析の全自動化システムの開発を通じて、世界的に長年懸案となっている分析データの二次利用化やビックデータ化に取り組んでいます。※1 Intelligent Biomolecular Screening (IBS) Project for Advanced Healthcare※2 Auto Biomolecular analysis Systematization (ABiS) Laboratory生体分子解析グループ
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