63グループ長川島 祐介1.ミッションと主要なテーマ プロテオミクスは、生命活動の実際の担い手であるタンパク質を包括的に解析する研究分野で、生命現象・病因・作用機序の解明や、病状の変化や治療の効果の指標となるバイオマーカーの探索などを行えます。最先端のプロテオミクスでは、細胞・組織中に含まれる10,000種類以上のタンパク質を一斉に分析することができるなど、技術革新が進んでいます。私たちは、このような最先端のプロテオミクス技術を、疾患診断などの医療分野を中心とした様々な分野に応用・実用化していくことを目指しています。私たちの開発した技術を“実際に使われる”計測技術にするために、分析システムの高感度化・安定性向上などの「基盤技術開発」、応用目的に対してブレークスルーとなる新しい方法を開発する「新規応用技術開発」、コスト削減やハイスループット化などの「実用化技術開発」の3つの技術開発を柱に研究を進めています。2.最近のトピックスや成果等 応用プロテオミクスグループでは、プロテオミクスの基盤技術として、包括的に観測できるタンパク質数を拡大させるための液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)システムを開発しています。2019年には8,000種類の、2022年には10,000種類のタンパク質を1度のLC-MS測定で検出することを可能にしました。さらに、5分という短時間で5,000種類のタンパク質を検出するLC-MSシステムの確立やLC-MSを安定稼働させるための独自技術の開発にも成功しました。このようにプロテオーム解析技術の底上げを行い、診断応用への土台を築きました。また、新生児スクリーニング検査の対象疾患の拡大を目指し、乾燥ろ紙血のプロテオーム解析をベースとしたタンパク質検査の開発を行いました。2020年に乾燥ろ紙血からより多くのタンパク質を観測するための前処理法を開発して論文報告し、検査に応用するために前処理法をさらに改良して多検体を自動で並行処理できるシステムにしました(特許申請中)。現在では乾燥ろ紙血から約6,000種類のタンパク質を検出することができています。そのうち約1,900種類のタンパク質がヒトの遺伝性疾患の原因として報告されており、私たちが開発した技術によって、数多くの遺伝性疾患をタンパク質レベルで一斉にスクリーニングできる可能性を世界で初めて示しました。3.将来展望 遺伝性疾患の診断のための検査方法は、まだまだ完全ではありません。低コストで迅速に確定診断をもたらす検査方法の開発が求められています。また今後は、すでに発症した病気の診断だけでなく、病気を未然に予防していくための検査も重要となってきます。私たちは最先端のプロテオミクス技術の開発と並行して、遺伝学的検査の課題を克服するための研究を実施しています。千葉県内外の医療機関・医科学研究機関と、検査を通じて密なネットワークを構築しているのも際立った強みです。こうした環境と研究開発能力を維持・強化していくことで、プロテオミクスを駆使した新しい革新的な検査技術を継続して生み出し、社会実装していくことを目指します。応用プロテオミクスグループ
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