30周年記念デジタルブック
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61グループ長糸賀 栄1.ミッションと主要なテーマ 遺伝子診断グループは、2019年4月に発足しました。前身となる臨床オミックス解析グループでは、ヒト由来のサンプルを対象とし、ゲノム・トランスクリプトーム・メタボローム・プロテオームについて広く総合的に解析していましたが、現在はそれぞれが独立し、遺伝子診断グループ・遺伝子構造解析グループ・生体分子解析グループ・応用プロテオミクスグループとなっています。私たちは、医療分野において切望されていながら、さまざまな理由からこれまで日本国内で受け皿のなかった難病の遺伝学的検査の受託解析を主たるミッションとし、これまで培ったDNA研究の成果を実際の診療に応用することを目指しています。2.最近のトピックスや成果 難病とは、一般的に治りにくい病気、治療法がわからない病気のことを指します。近年、難病の多くで原因となる遺伝子変異が明らかになってきており、それを調べる遺伝学的検査が病気を診断する上で有用となってきています。しかしながら、遺伝学的検査は採算性の低さにより、既存の検査会社からは提供されていませんでした。さらには、2018年に施行された改正医療法によって、大学等の臨床研究が診断目的としては利用できなくなるという閉塞状況に陥っていました。そこで私たちは、2017年にこれまで積み上げてきたDNA解析技術を活用した「登録衛生検査所」を立ち上げました。そして、更なる要望に応じて継続的改善を行い、現在では、DNAシークエンシングによる難病の遺伝学的検査を実施する、わが国唯一の公的機関によって運営される施設として、全国津々浦々の大学病院やクリニックなど多くの医療機関よりご依頼をいただくようになりました。 検査で調べるのは患者さんの血液1mL程度ですが、そこには大きな願いが込められています。検査依頼の約7割は小児科からです。小さなお子さんの日々の苦しみ、親御さんの切なる願い、主治医の大いなる期待が見て取れます。これまでどこの医療機関でも診断が付かず、最後の砦として検査を出されるケースも少なくありません。これらの思いに応えるべく、そして公益財団法人の使命を忘れることなく、身を引き締めて業務にあたっています。 スタッフには、当研究所に所属する専門性を有する研究者・技術スタッフ・バイオインフォマティシャンに加え、(外部)管理者として、臨床検査技師、指導監督医をはじめとする複数の医師・看護師・認定遺伝カウンセラーなどの専門職員が一丸となって対応しています。そして2024年4月現在、全国750施設の医療機関からの依頼を受け、354種類の疾病について、年間約1万件を超える検査を実施しています。 また2018年から2023年にかけて、新生児スクリーニング事業を実施しました。難病の治療薬や治療法の開発が進み、発症する前に適切な治療をすれば、生涯にわたる大きな障害を未然に防ぐことができる疾患が増えてきました。しかし、そのような疾患を検出するための先端技術を駆使したスクリーニングができる検査施設が国内にはありませんでした。そこで当研究所に備わっている質量分析装置を用いた解析技術のノウハウを活かして、ライソゾーム病のいくつかと脊髄性筋萎縮症(SMA)などについて、新生児を発症前に検査する体制を千葉県内から開始し、関東圏に展開できるようにしました。新生児スクリーニングはこれまでに年間約3万件を実施してきました。この事業は、2024年度からは都県ならびに民間企業へと引き継がれ、私たちはイノベーターとしての役目を終えました。遺伝子診断グループ(遺伝子検査室)

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